コラム

欧米に傾斜しすぎる日本、グローバルサウス争奪戦に参加せよ

2023年09月14日(木)17時14分

本件は表面的にはフランスが反対したという形を取ったが、NATO加盟国には日本に対して同じ感想を持つ国が多いことは容易に想像できる。当たり前だが、彼らは日本との軍事協力を必要以上に深めて、東アジアで余計な戦線を持ち、中国共産党を刺激し中国市場と中国資本を失うほどお人好しではない。 岸田政権がロシアだけでなくグローバルサウス全体にまで説教をする態度をとり、全力でウクライナ支援にのめりこんでいるのとは対照的な冷徹ぶりだ。

しかも、ドイツとポーランドは今年6月までドルジバパイプライン経由でロシアのエネルギーを輸入しており、6月以降も第三国のエネルギーをロシア経由で輸入している。 また現在のドイツはイランからエネルギーを輸入しているが、その利益はイラン製自爆ドローンの量産に使われ、ロシアに供与されてウクライナ市民を殺害している。こうした冷徹でリアリスティックな姿勢や考え方が日本政府や日本人にはないのは大きな問題だ。

さらに、岸田政権はバイデン政権や欧州諸国の方針に過剰に合わせることで、何かを得るどころか、本来得るべきであった重要な信頼を失っている。それはグローバルサウスの国々からの信頼だ。

グローバルサウスとの関係:日本の外交の新たな焦点

これらの国の欧米やロシアに対するアプローチは、まったく日本政府とは違うからだ。 国連の発表では、2023年度中にインドが中国を抜いて世界1位となる。しかし、今後、人口が増える国はインドだけではない。インド、ナイジェリア、パキスタン、インドネシア、エジプト、を筆頭にグローバルサウスの国々が経済力上昇を背景とした生活環境の改善を通じて人口爆発を起こしている。東南アジア、南アジア、中南米だけでなく、アフリカからも大量の中間層が形成されることで、地球の南北のバランスは大きく変わることになるだろう。そしてこれらの国々の中ではすでに人々の収入が、日本人を大きく抜いている国も出始めている。

こうしたことの認識も日本政府にはない。 グローバルサウスの国々は、ウクライナ戦争がもたらす資源高・食料高を必ずしも望んでおらず、対ロシアの政策においてまったく欧州諸国を支持していない。国連で反戦決議を取れば賛成するものの、経済制裁に参加していないことからもこれは明らかだ。ロシアの行為を否定することと、経済制裁に参加せず自国民の経済を守ることは両立するということだ。 さらに、文化的・政治的に保守的な国も多く、バイデン政権や欧州諸国が押し付ける過剰にリベラルな価値観を受け入れることは決してない。

グローバルサウスの中心は中国、インド、ブラジル(及びロシア)だ。彼らはBRICsの枠組みを拡大することで、欧米抜きで自分たちの影響力を強めている。8月に南アフリカのヨハネスブルクで開催された第15回BRICS首脳会議のテーマは「BRICSとアフリカ-相互協力による成長、持続可能な開発、包括的な多国間主義のためのパートナーシップ」であった。同枠組みへの参加国は拡大する見通しであり、既に約20か国が公式に加盟申請し、さらに20か国以上が参加に関心を示している。

また、中国はサウジアラビア及びイランの手打ちを仲介して中東地域でのプレゼンスを伸ばしつつある。これは米国の中東に対するプレゼンスが相対的に低下していることの裏返しだ。(まして、安倍首相のイラン訪問中にタンカーが襲撃された日本外交とは大違いだ。) フランスの影響力が減退しているアフリカ諸国ではイスラム系テロリストに対抗するためにロシアを頼りにする向きも少なくない。欧米諸国の軍事支援は限定的である上、ロシアが支援の条件としてリベラルな価値観を押し付けないことは極めて重要な要素となっている。

インドにおいて開催されたG20の裏側で、2023年9月10日よりロシアのウラジオストクで東方経済フォーラムが開始された。ウクライナ侵攻で疲弊した大陸国家のロシアの国際会議にすら中国や北朝鮮やベラルーシといった国だけでなく、インド、ベトナム、カザフスタン、ラオス、ミャンマー、シンガポール、フィリピンといった国々が参加しているのが実態だ。今後、この国際会議にも参加国が戻ることはあっても減ることはないだろう。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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