コラム

バイデン政権は事実上弾切れ、中間選挙の見通しは厳しく

2021年08月27日(金)15時50分

アフガニスタンの状況についてのメディアの質問を聞くバイデン大統領 REUTERS/Jonathan

<やや気は早いものの、日本でも中間選挙後の連邦下院を失ったバイデン政権のレイムダック化を見越した議論をスタートするべきだろう>

アフガニスタンでの米軍の無残な撤退模様が全世界に配信されたことで、バイデン政権の支持率は50%を切る事態となった。カブール空港でのイスラム国による自爆テロ発生など、現在に至っても同国の情勢は安定していない。世論調査ではアフガニスタン撤退について米国民の大半は必ずしも反対ではないが、あまりに酷い撤退劇が米国民の心証に与えている負の影響は計り知れないものがあるだろう。

バイデン政権の支持率低下は来年に予定されている連邦議会議員選挙にも影響を及ぼすことになる。選挙区見直しの結果として、共和党が民主党から下院過半数を奪取する可能性が高い状況下で、バイデン政権が失地挽回するための政策を必要としていることは間違いない。

実際、NBCの最新世論調査によると、今年4月時点の世論調査結果と比較して、共和党が議会を支配したほうが良いとする人の比率が41%から46%に増加しているのに対し、民主党の数字は47%から変わっていない。つまり、この数字は勝敗ライン上にある選挙区で、当落結果の差異をもたらす無党派層の支持率が共和党に急速に傾きつつあることを示している。

失地挽回を図る方法は巨額のバラマキ政策

バイデン政権が失地挽回を図る方法は巨額の財政出動によるバラマキ政策だ。

8月24日に下院民主党執行部が党内中道派の反対を押し切って、3.5兆ドルの巨額の予算決議を通過させた。下院採決直前まで下院民主党の中道派議員らが超党派インフラ投資法案との採決順序を引き合いとし、民主党左派が主導する予算決議を止めようと試みていた。しかし、ペロシ下院議長は左派の予算決議をゴリ押しし、民主党の選挙対策としての巨額のバラマキを実現するに至った。

この背景にはバイデン政権の公約達成という目的だけでなく、アフガニスタン政策の失敗からのリカバリーとしての側面もあったことは明らかだ。バイデン政権による巨額のバラマキに伴う利益誘導は、米国経済を一時的に活性化させるとともに、各選挙区の企業・雇用を下支えすることになるからだ。

財政赤字拡大による債務上限問題が噴出する

しかし、バイデン政権の支持率のピークは「現時点」だと見て良いだろう。

米国経済は回復基調にあり、雇用も徐々に改善してきている。今後、しばらくは景気回復及びバラマキ効果が継続するであろう。ただし、FRBによる金融緩和の見直しがスタートすることが見込まれる中、現在のトレンドが来年11月の連邦議会中間選挙まで持つかは極めて疑問である。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月PPI、前月比0.5%上昇と予想以上に加速 

ビジネス

中国テンセント、第1四半期は予想上回る6%増収 広

ワールド

ロシア大統領府人事、プーチン氏側近パトルシェフ氏を

ビジネス

米関税引き上げ、中国が強い不満表明 「断固とした措
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story