コラム

トランプ大統領の新型コロナウイルス対策をリバタリアン目線から斬る

2020年03月25日(水)16時30分

Jonathan Ernst-REUTERS

<米国の有力な政治勢力の1つであるリバタリアン。彼らはトランプ政権のコロナウイルス対策をどう捉えているのか解説することを通じて、リバタリアンの考え方の一端に触れていく......>

2020年1月、中国政府によって武漢が閉鎖された時から新型コロナウイルスに対する恐怖によって国際社会の様相は一変してしまった。日本でもメディアが連日のように新型コロナウイルスの脅威を報道し、政府が自粛を求め続けた結果として、人々の間では自粛疲れの空気すら漂い始めている。

米国の政治勢力の1つであるリバタリアンは、トランプ政権のコロナウイルス対策を極めて冷ややかに見ている。リバタリアンとは、経済・社会活動に対する政府の介入を教条主義的に否定するグループであり、その数は人口10%未満に過ぎないものの、その理論構築力や運動力の高さから1つの有力な政治勢力として一目置かれる存在となっている。

今回は連載第1回ということで、リバタリアン目線でトランプ政権のコロナウイルス対策がどのように見えるのか、という視点から解説することを通じ、彼らの考え方の一端に触れていくことにしたい。

州政府などが実施しているシャットダウンに断固として反対

リバタリアンの視点から見ると、トランプ大統領が問題発生当初に中国に対する渡航制限の効果を安易に強調し、政権が同措置に対する無意味な過信を持つことで感染拡大に対する国民の脅威認識が薄められた、と捉えられている。トランプ政権が渡航制限に踏み切ったタイミングが既に遅く、そのシャットダウン効果は限定的であったことは現在の市中感染者数が証明している。むしろ国民に感染状況に関する誤った脅威認識を持たせたことで感染拡大が起きる社会的素地が形成されたと考えることすらできる。

そして、そもそも渡航制限などの強硬措置を実施したトランプ政権の対応は、経済活動を停滞させることを通じ、雇用が不安定な低所得者の公衆衛生を悪化させることで、感染の温床となる層を国内に新たに作り出しているとも言える。

リバタリアンは州政府などが実施しているシャットダウンに対しても徹底的に抗議を行っている。政府がライフラインを維持するために必要な産業と不要な産業を規定し、なおかつ人々を屋内待機させる政策は中央集権的で機能しないものとして捉えられている。実際、不要とされた産業は必要な産業のサプライチェーンの一部を構成していることもあり、物事はそれほど簡単ではない。

ペンシルバニア州では知事の命令でコインランドリーが閉鎖されたが、洗濯機を有していない人々の衛生環境・利便性が悪化したこともあり、現在では他の多くの事業所と同じように運営が再開されている。これらの閉鎖措置は国土安全保障省などとの協議の上で実行されたものであるが、それが経済活動に甚大な被害を与えて雇用を失わせるものであることは議論の余地はない。リバタリアンはこのような中央集権的な現場を踏まえないシャットダウンに断固として反対する立場を取っている。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 9

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story