コラム

賃上げできない日本からは、外国人も減っていく

2023年01月23日(月)15時55分
周 来友(しゅう・らいゆう)(経営者、ジャーナリスト)
岸田文雄

Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<日本の低賃金は日本人にとって切実な問題だが、それだけではない。専門職など「高度人材」の外国人もいなくなり、外国から日本に来るのは観光客と投資家だけになるかもしれない>

最近、近所のコンビニやスーパーで働いているのは、ほとんどがベトナム人やネパール人。その中にバングラデシュやスリランカの人も交じっている。

以前は中国人が中心だったが、完全に入れ替わってしまった形だ。近所に限らず、東京ではこうした光景が珍しくなくなっている。

私が日本にやって来た1987年頃、日本で3日働けば、中国の1カ月分の収入が稼げると言われていた。35年がたち、両国の経済規模は逆転した。

日本では平均賃金が30年近く横ばいで、今ではOECD加盟国35カ国中24位。1位のアメリカの半分程度しかない。大手企業の給与に限って言えば、中国のほうが高いケースさえある。そんな国から来た若者たちが日本で低賃金の職に就くわけがない。

日本の平均賃金は、これからも低空飛行を続けるのだろうか。いまコンビニや工場で働いているベトナム人なども、いずれ自国経済が発展すれば、中国人同様わざわざ日本になど働きに来なくなるだろう。

日本は安全で暮らしやすいが、稼げる国かと言うとそうではなくなっている。日本の給料が上がらなければ、外国人労働者は必然的に減っていく。

日本政府が呼び寄せたい専門職などの「高度人材」も例外ではない。となれば、日本に来るのは安い物価に魅力を感じる観光客と投資家だけだ。

この低賃金問題、外国人がうんぬんという以前に、日本人にとって切実な問題のはずだ。物価高が家計を直撃し、今まさに賃上げが議論の的になっている。

年始には岸田文雄首相が経済界に賃上げを要請したが、果たしてどうなるだろうか。

経営者でもある私には、「そう言うおまえはどうなんだ」という声が飛んできそうなので、まずはそれに答えておきたい。

私が経営する通訳・翻訳の派遣会社は、報道分野が専門で、主な取引先はテレビ局や雑誌社という特殊な業態だ。そのため、スタッフにはもともと単価の高い賃金を払っている。

加えてここ数年は、業績の悪化したテレビ局から度々値下げの相談をされてきたが、それでもスタッフとして登録している通訳者に支払う賃金はできるだけ下げなかった。仕事で関わる人たちに対しては、その生活を守る努力をしてきた自負はある。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story