コラム

ウクライナからの「避難民」が「難民」ではない理由

2022年05月12日(木)17時45分
石野シャハラン
避難民

日本に到着したウクライナ難民(4月5日) KIM KYUNG HOONーREUTERS

<ロシアへの経済制裁をすぐ決断し、政府専用機を飛ばしてウクライナから「避難民」を受け入れた日本。しかし、本当に必要なのは、安心して滞在できる「法的な身分」だ>

ロシアがウクライナに侵攻してから2カ月以上がたった。目を背けたくなるような現地の悲惨な状況が、日々テレビやネットにあふれていてつらい。この戦争が、私の出身国イランでどのように報道され、人々にどう受け取られているか、友人などに聞いてみた。

イランでは地上波のテレビはあまり見られなくなっていて、人々はネット上のニュースサイトでニュースを得ることが多い。そこでは逐一ウクライナの状況が伝えられているそうだ。ミサイル攻撃、民間人の虐殺、人道回廊が機能していないことなど、日本での報道と同じか、それ以上に詳細に報道されている。

私は意外に思った。中東では冷めた目でこの戦争を見ていると思っていた。なぜなら、これまで中東で内戦や戦争が起こっても、これほどまでに世界の同情を引くことはなかったので、その扱いの格差に中東の人々は疑問を持っている、と日本のニュースでチラホラと見掛けたからだ。

しかし少なくともイランでは、そのような冷めた見方は皆無らしい。どの国が戦地になってもそれは悲惨で恐ろしいことで、起こってはいけないことであり、また被害を受けた人々は最大限に保護されなければいけない、と大いに同情した報道が毎日なされている。一つには、イランは世界でも有数の難民受け入れ国であることが背景にあるのかもしれない。

一方で、私は今回の戦争への日本の対応に大いに驚いた。日本政府は、アメリカやイギリスに歩調を合わせてすぐに経済制裁を始め、政府専用機まで飛ばして避難民を受け入れた。大手製造業の企業も、すぐにロシアでの業務停止を決めた。

このように迅速で的確な処置は、イラク戦争、チェチェン侵攻、アフガニスタン内戦、シリア内戦では全くなかった。時の政権の姿勢の差なのかもしれないが、やればできるじゃない日本! 難民を受け入れるなんて! とビックリしたのである。

しかし、鋭い読者なら気付いているでしょう。「避難民」と「難民」は、日本では扱いが違うのである。日本では、難民と認定されると定住資格を与えられ、国民健康保険に加入したり、年金や児童手当の支給を受けられたり、日本人と同じような待遇を受けることができる。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国4月鉱工業生産、予想以上に加速 小売売上高は減

ワールド

訂正-ポーランドのトゥスク首相脅迫か、Xに投稿 当

ビジネス

午前の日経平均は反落、前日の反動や米株安で

ビジネス

中国新築住宅価格、4月は前月比-0.6% 9年超ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story