コラム

コロナ禍と副業推進で日本の格差は加速度的に広がる

2020年08月14日(金)17時00分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)

知識やスキルを持つ人は本業でも副業でも引っ張りだこ Hajime Kimura for Newsweek Japan

<優秀な人ほど複数の仕事で高い収入を得られるが、その他大勢の人たちは理不尽な労働条件に甘んじざるを得なくなる>

7月半ば、ヤフーが副業として同社で働く他社の人財(私はあえてこの言葉を使う)を募集する、というニュースが流れた。新型コロナで在宅勤務する人が増えた結果、時間的な余裕ができて副業を始められる人も増えてきているらしい。

私の知り合いの勤務する会社は、世間に先駆けて1年以上前に副業解禁になった。彼自身は忙しくて副業を考える暇すらないという状況だが、社内では副業を始めた人がチラホラいるそうだ。どんな副業かというと、IT関連のコンサルタントや講演、執筆が多い。この会社は世界有数の外資系IT企業である。その会社の中堅以上の人財で、社外にネットワークがある人ならば(競業他社とは仕事ができないそうだが)副業程度の話は引きも切らないという。

言うまでもないが、このような人たちは日々の生活費に困っているわけではない。それどころか日本人の平均所得の何倍という額の給与を本業で得ている。そういう人たちに、更に副業として、決して小さくない追加収入が入ってくるわけである。それも本業で得た知識やスキルを利用して。皮肉なものである。

少子高齢化に伴う労働人口の減少を補うためというのが、日本政府が副業を推進する理由だ。労働人口の減少が具体的にどの業界・業種を指すのかは定かではないが、副業人財はヤフーのような企業にとってもメリットが大きい。労働時間が所定の時間に届かなければ社会保険料などを負担する必要はないので、結果的にヤフーは格安で副業人財の持つ知識とスキルを使えるわけである。つまり、これからは企業のニーズに合った知識やスキルを持つ人は本業でも副業でも引っ張りだこで、持たない人は本業にしがみつくのがやっと、ということになるのだろうか。

企業の「働きやすさ」が一目瞭然に

本誌の読者は薄々お気付きだろうが、新型コロナと副業推進は、日本の働き方を根本的に変えつつある。現在の転職市場の状況は厳しいが、コロナショックから立ち直れば再び動きだす。

その時、リモートワークができるかどうかは転職先を決める大きな判断材料になる。今まで入社してみないと分からなかった「働きやすさ」が、今後は一目瞭然になってしまう。リモートワークを一切許可しない、その環境を整えないような会社からは優秀な社員ほど流出してしまうだろう。そして、その穴を埋める優秀な人財を獲得することも難しくなるだろう。

こうして、「日本型社会主義」とも揶揄された一律の新卒採用、均質な働き方、硬直した給与体系......も急激に変わっていくはずだ。優秀な人ほど良い環境・良い条件で複数の仕事をして高い収入を得るが、その一方で、その他大勢の人たちは長時間労働や満員電車での通勤、低賃金など、理不尽な労働条件に甘んじざるを得なくなる。

<関連記事:コロナ禍で露呈した「意識低い系」日本人

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

鈴木財務相「財政圧迫する可能性」、市場動向注視と日

ワールド

UCLAの親パレスチナ派襲撃事件で初の逮捕者、18

ワールド

パプアニューギニアで大規模な地すべり、300人以上

ワールド

米、ウクライナに2.75億ドル追加軍事支援 「ハイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ

  • 2

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」...ウクライナのドローンが突っ込む瞬間とみられる劇的映像

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリ…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 8

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 8

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story