コラム

日本政府のコロナ「鎖国」は在住外国人への露骨な差別では?

2020年07月17日(金)17時15分
西村カリン(ジャーナリスト)

多くの在住外国人がいったん海外に出ると日本に戻れない状態が続いている Pawel Kopczynski-REUTERS

<他国にならって厳しい入国制限を実施した日本政府だが、在住歴や渡航歴を見て入国許可を決めるのではなく、国籍で判断していることは問題だ>

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、多くの国々では一時的に「ロックダウン(都市封鎖)」が実施された。母国であるフランスもそうだった。日本政府は「都市封鎖はしない」「ロックダウンはしない」と強調したが、ほぼ完全な「鎖国」をした。2月から、中国をはじめ外国からの入国制限を次々と厳しくし、6月末の時点で入国拒否の対象は111カ国・地域まで拡大。水際対策が行われている。

今もこの鎖国体制が続いているが、日本に住んでいる多くの外国人にとっては大変な状況だ。なぜならばプライベートでもビジネスでも、いったん海外に出てしまうと日本に戻れないからだ。母国で病気になった親の介護の目的で一時的に日本から離れ、日本に戻ることができない外国人が数十人はいる。多くの国の在日大使館にとって大きな問題だ。

これを批判された入国管理局は、一部の制限を緩和した。現在では、滞在先の国・地域が上陸拒否の対象地域となる前に出国した「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」または「定住者」の在留資格を有する外国人は、特段の事情があるものとして再入国を許可。そのほか人道上配慮すべき事情があるときなど、個別の事情に応じて再入国を許可すると説明している。しかし、いくつかの大使館の担当者によると、「特段の事情」や「人道上配慮すべき事情」はとても限られたケースだ。

国籍で決めるのが一番簡単だから?

問題は、日本政府が在住歴や渡航歴を見て入国許可を決めるのではなく、国籍で判断していること。もし、私が今2人の息子と一緒にフランスに行ったとしたら、日本に帰る際に息子は日本人だから入国できるが、私は全く同じ渡航歴があるにもかかわらず再入国ができない。日本人ではないからだ。取材した入国管理局の官僚はこう答えた。「確かに、科学的な根拠のない判断だが、外国人とは違って日本人に対する入国制限はできません」

「日本の官僚たちにとっては国籍で決めるのが一番簡単だから、そうしたのではないか」と、日本在住のアメリカ人の大学教員は私に語った。結果的に、日本の政策は外国人への差別となっており、「外国人は危険だ」という考え方と同じだ。

ちなみにフランスの場合は、在住外国人をフランス人と同じように扱う。一時的に母国に行ったとしても、フランスに戻ったら再入国ができる。EUの全ての国々がそうだ。だから多くの国は、日本も在住外国人を差別しないことを求めている。

<関連記事:日本は時代遅れの「世帯主」制度をそろそろやめては?

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

金融デジタル化、新たなリスクの源に バーゼル委員会

ワールド

中ロ首脳会談、対米で結束 包括的戦略パートナー深化

ワールド

漁師に支援物資供給、フィリピン民間船団 南シナ海の

ビジネス

米、両面型太陽光パネル輸入関税免除を終了 国内産業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story