コラム

ドイツでもっとも後進的だった電力業界に起きた破壊的イノベーション

2020年10月09日(金)13時00分

顧客優先のサービス

リチオンは、バイオガス、太陽光発電、風力、水力発電からのみ、グリーン電力を生産する独立した電力生産者と協力している。屋上にソーラー・システムを備えた太陽光発電を行う個人世帯は、使用しない電力量をドイツの送電網に供給し、リチオンのマーケットプレイスで販売することができる。農家は、バイオガス・プラントを建設し、電力生産者としての第2の収益の柱を作成する場合にも、リチオン・システムを使用できる。

リチオンは、破壊的なイノベーションと技術を通じて、エネルギー産業に革命を起こしている。このベルリンのスタートアップは、2018年の初めに始まったばかりだ。リチオンの創設者は、ビッグ4のひとつであるVattenfallのビジネスITスペシャリストとして長い間働いていた。彼らは新しいアイデアを実装しようとしたが、サイロ化した企業内では実現できなかった。そこで彼らは自ら起業に乗り出した。電力市場は、ドイツで最も後進的な市場の1つである。しかし、確立された企業でのイノベーション意欲の欠如は、逆に新しいプレーヤーにとって絶好の機会となったのだ。

ベルリンのリチオンは、設立以来、ソフトウェアグループSAPと協力してブロックチェーン技術を継続的に開発してきた。さらに協業の一環として、ベルリンのモバイル・バンクとして急成長を遂げたN26が有する200万人の顧客に、N26バンキング・アプリ内で特別な電気料金を提供している。

リチオンの次のマイルストーンは、2021年末までに、ビジネスまたはプライベートを問わず、10万人を超える顧客を獲得することだ。現在、顧客数は毎月4桁ずつ増えている。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

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