最新記事
大谷の真実

大谷翔平騒動で注目、「無法地帯」化した米スポーツ賭博市場の現況...若者を中毒にさせる「インゲーム・ベット」とは何か?

THE NEW WILD WEST

2024年4月1日(月)18時00分
メーガン・ガン(ライター)
ラスベガスのカジノのスポーツ賭博エリアで試合映像を見つめる人々 MIKAYLA WHITMORE FOR THE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES

ラスベガスのカジノのスポーツ賭博エリアで試合映像を見つめる人々 MIKAYLA WHITMORE FOR THE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES

<進む解禁と市場拡大でプロリーグも業者と提携、規制不在のなか、依存症問題は深刻化する一方だ>

MLB(米大リーグ)のスター選手の銀行口座から、どうして450万ドルもの大金が違法賭博業者の手に渡ったのか──。

それこそ、MLB球団ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手をめぐる騒動の核にある疑問だ。

大谷の説明によれば、通訳を務めていた水原一平が、ギャンブルでの借金を穴埋めする目的でカネを盗んだという。一方、水原は大谷が友人である自分を助けるために支払いを行ったと主張したとされるが、後にこの声明を撤回した。誰に責任があるのか、現時点で見極めるのは不可能だ。真相解明のため、少なくとも2件の捜査が進行している。

今回のスキャンダルは、アメリカでスポーツ賭博が爆発的に拡大するさなかで発生した。この「大ブーム」の発端は、スポーツ賭博の規制は各州の判断に委ねるとした米連邦最高裁判所の2018年の判決だ。

現在、スポーツ賭博は米国内38州と首都ワシントン、米自治領プエルトリコで合法化されている。米ギャンブル業界団体のアメリカン・ゲーミング協会の報告によれば、昨年の賭け金総額は前年に比べて27.8%増加し、過去最高の1198億4000万ドルに達した。

それに伴って、ギャンブル依存症のリスクも増大している。スポーツ賭博が禁止されている州も例外ではない。禁止州の1つで、大谷の本拠地であるカリフォルニア州では昨年、専門ホットラインへの電話相談件数が70%以上も増えた。

「違法賭博は現実に行われているし、これまでもずっと行われていた」と、スポーツ賭博規制に詳しいオクラホマ州立大学のジョン・ホールデン准教授(経営学)は指摘する。「違法市場の規模も、伸長や縮小の実態も十分に把握できていない」

はっきりしているのは、米社会のギャンブル観が激変している現実だ。1976年当時、アメリカ人の大半は賭博合法化に反対していたが、今では賛成者の割合が85%に上る。

「よりアクセスしやすくなり、容認度が上がるほど、より多くの人が賭博に手を出すようになる」と、米ラトガーズ大学ギャンブル研究センターのリア・ナウワー所長は言う。

スポーツ界で相次ぐ不祥事

テクノロジー向上やデータの増加で、スポーツ賭博の対象はもはや試合結果だけではなくなった。アメリカン・フットボールでもマレーシアの卓球でも、世界各地のスポーツ選手のパフォーマンス、試合中の特定の動きや展開に賭けることができる。

大谷をめぐる一件は、米スポーツ界で続く賭博スキャンダルの最新の事例だ。昨年には、NFL(全米プロフットボールリーグ)でギャンブル規定違反による選手の出場停止処分が相次ぎ、アイオワ大学とアイオワ州立大学の現役・元アスリート20人以上が、大学スポーツを対象にした違法賭博容疑で告訴された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国とロシア、核兵器は人間だけで管理すると宣言すべ

ビジネス

住友商、マダガスカルのニッケル事業で減損約890億

ビジネス

住友商、発行済み株式の1.6%・500億円上限に自

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中