最新記事
中台関係

中国漁船転覆2人死亡、中国が台湾に仕掛ける「グレーゾーン」戦略とは?

2024年3月5日(火)18時10分
ブライアン・ヒュー(ジャーナリスト)
中国漁船 金門島

転覆した中国漁船から4人が海に転落、台湾側に救助されたが…… TAIWAN COAST GUARD ADMINISTRATIONーAP/AFLO

<台湾当局の取り締まりで発生した事件。台湾では政治闘争が過熱する一方、中国政府は事件を利用し、金門島周辺で新たな動きに出始めた>

中国人の漁民2人が2月中旬に死亡した事件をめぐり、台湾では与野党間の政治闘争が続いている。一方、中国政府は事件を利用して、福建省の厦門(アモイ)から数キロの距離にある金門島周辺での「グレーゾーン」戦略をエスカレートさせようとしている。

2月14日、金門島の海域に侵入した中国漁船が台湾の海巡署(海上警察)の取り締まり中に逃走。海巡署の警備艇と衝突・転覆した。このとき4人が海に転落し、台湾側に救助されたが、2人は後に死亡が確認された。

中国側は事件発生直後、比較的控えめな対応だったが、4日後の2月18日になって金門島周辺海域の巡視活動を強化すると発表。翌日、中国海警総隊は初めて台湾観光船の臨検を実施し、30分後に金門島への帰港を許可した。

注目すべきは、中国がこの発表まで数日かけたことだ。事件に対する最初の注目の波が去るまで待っただけかもしれないが、問題の漁船は明らかに台湾側が設定した金門島周辺の「禁止海域」に侵入していた。中国政府としては、同様の侵犯行為をしても政府が後ろ盾になってくれると民間の漁民に思わせたくなかった可能性もある。

グレーゾーン戦略の強化は民間ではなく、国家主導で行うことを望んでいる可能性もある。いわゆる「仮想敵」との衝突で人命が失われた今回の事件は、地域の緊張を高めかねない。国内のナショナリズムに火が付けば、中国政府はもっと強力な措置に出ざるを得なくなるかもしれない。

中国側の対応からは、危険な火種になりかねない事件を利用する一方で、全体的な枠組みをうまく管理しようとする思惑が透けて見える。

2023年2月、台湾と馬祖島を結ぶ2本の海底ケーブルを中国漁船が切断する事件があった。単なる事故だった可能性もあるが、馬祖島のインターネット接続はほぼ遮断され、民間船舶による敵対行為の脅威が議論されるようになった。実際、中国の「軍民融合戦略」に対する懸念は、ここ数年高まっている。

台湾では、中国が今回の事件を利用して台湾の離島をグレーゾーン戦略の標的にするのではないかと懸念する声もある。だが台湾の軍当局は、今回の事件を受けて離島の防衛体制を強化する計画はないと強調している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中