最新記事

トルコ

大国にもなびかないトルコ...独自外交の旧帝国は「グローバルサウスの一員」と言えるのか?

FIERCELY INDEPENDENT

2023年9月21日(木)13時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)
エルドアン

KACPER PEMPELーREUTERS

<欧米やロシアを翻弄しながら自己利益を追求するエルドアン>

トルコは「グローバルサウス」の一員と見なされることが多い。そして、人はトルコをアナトリア半島に押し込められた元オスマン帝国の残骸だと思って軽んじる。

だがトルコは、世界に数ある「旧帝国」の中ではほぼ唯一、上り調子の存在だ。それは、「グローバルサウスの一員」とは言えない。

EUとの経済的関係、NATOの一員としての軍事的地位を重視しつつ、大国にもなびかず、一国で存在感を示す。カフカス、中央アジアといった元オスマン帝国の領域での勢力回復にも余念がない。トルコはこの地域をTuran(トュラン)と呼び、文化的な一体性を打ち出す。

欧米からすれば、トルコがグローバルサウスの一国のように見えるのは、1つにはウクライナ戦争でトルコが西側と足並みをそろえぬ独自外交を展開したからだろう。

だがトルコは従来、その外交で我を貫いてきた。アメリカは2003年、トルコ領からイラクに米軍を進発させることを拒絶され、作戦の練り直しを迫られた。NATOではアメリカに次ぐ規模の陸軍力を有し、周辺に自国を脅かす大国はなく、アメリカの機嫌を損ねても問題ない。

19年にはアメリカに最新鋭F35戦闘機開発計画からの排除を警告されながらも、アメリカに敵対するロシアから地対空ミサイルS400を購入した。22年には、スウェーデン、フィンランドのNATO加盟に横やりを入れ、クルド人反乱分子の扱いで自国の要求を通している。

トルコはGDPではロシアに及ばないが、自動車や電機、建設業を中心に資源に依存しない経済力を有している。対ウクライナに注力するロシアを尻目にカフカスや中央アジアでの勢力を着々と回復してもいる。10年には同族国のアゼルバイジャンと一種の軍事同盟協定を結び、カフカスにロシア以上の地歩を築いた。上海協力機構(SCO)ではオブザーバーの資格を得て、昨年9月の首脳会議では加盟国を尻目に主役顔で振る舞う姿が印象的だった。

ロシアはトルコの機嫌を損ねれば、ボスポラス海峡を閉鎖され、黒海艦隊は地中海での行動を制限される。トルコはロシアによる南ヨーロッパ向け天然ガス・パイプラインの通り道でもあり、ロシア経済はトルコに依存せざるを得ないのだ。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-トルコ、予算削減額は予想上回る

ビジネス

米金利維持が物価目標達成につながる=クリーブランド

ビジネス

米4月輸入物価、前月比0.9%上昇 約2年ぶり大幅

ビジネス

米鉱工業生産、4月製造業は0.3%低下 市場予想下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中