最新記事

アフリカ

「アフリカの危機は人類の課題」連携強化に向けた日本の役割とは【TICAD30年】

2023年8月30日(水)11時30分
※JICAトピックスより転載
ナイル架橋の完工式

ナイル架橋の完工式に出席したJICAの田中理事長(中央)、南スーダンのキール大統領(左)、マシャール第一副大統領(2022年5月)

<国際社会が複合的な危機に直面する今、アフリカが瀕する数多の危機は人類共通の課題と言える。裏返せば、アフリカの社会課題を解決する取り組みやイノベーションが日本や世界の生活を向上させる可能性もある。日本のアフリカ協力の形、今後JICAが注力していく分野について、田中明彦理事長に聞いた>

日本政府の主導で1993年に始まったTICAD(アフリカ開発会議)が、今年で30年を迎える。これまで8回を数えるTICADでの議論を通じ、日本は常にアフリカ諸国に寄り添った開発協力を続けてきた。気候変動、パンデミック、ロシアによるウクライナ侵略など、複合的危機の時代と言われる今、アフリカへの取り組みはどうあるべきか。国際社会におけるアフリカの重要性やTICADの意義、そして対アフリカ関係におけるJICAの役割を、田中理事長が語る。

「アフリカ」という国はない。とてつもなく広く、多様性と可能性にあふれた集合体だ


──JICA理事長として自らアフリカ各国を訪問される中、現地で感じたアフリカの可能性や課題についてお聞かせください。

田中 2022年にJICA理事長に再就任し、最初に訪れたのが南スーダンです。2012年の独立直後からJICAが協力してきたナイル架橋の完工式に出席しました。度重なる紛争やコロナ禍による3度もの中断を乗り越えた10年越しのプロジェクトです。しかも当日は、長年対立関係にある大統領と第一副大統領も参加しました。「フリーダム・ブリッジ」と命名された通り、この橋が南スーダンの自由と平和の象徴となることを期待するとともに、南スーダンの将来への可能性を感じました。

アフリカ諸国のうち、これまでに訪問したのは20カ国ほどですが、現地で実感したのは、アフリカはとてつもなく広大で、とてつもなく違うということです。一言で「アフリカ」と呼べる場所はなく、言葉、気候、宗教、国民性など、国によって実にさまざま。その広大さ、多様さがアフリカの大きな魅力と言えます。

一方、近年は気候変動に由来する自然災害の頻発、新型コロナ蔓延による医療事情の悪化、ロシアのウクライナ侵略に端を発するエネルギーや食料価格の高騰、世界的なインフレと先進国の金利上昇による途上国の債務問題の悪化などで、多くの国で情勢が不安定化しています。数多くの国は「人間の安全保障」が脅かされる深刻な状況に瀕しており、これをどう乗り越えていくかが課題です。

TICAD_Photo_1.jpg

──国際社会が複合的な危機に直面する今、アフリカの重要性が高まっていると言われるのは、なぜでしょうか。

田中 一つは人道的危機への対応です。これは当然対処しなければならない、人類共通の課題です。国際社会が目指す2030年のSDGs(持続可能な開発目標)達成においても、アフリカが抱える極度の貧困人口の削減は不可欠です。

もう一つが人口増加です。現在、アフリカ全体の人口はインドや中国と同じ約14億人ですが、2050年には約25億人にまで増加すると言われています。将来的には巨大なマーケットになることが期待され、地球の中で最もダイナミックに発展する地域となるでしょう。成長する可能性が高いアフリカの潜在性を開花させることは、先進国を含め、世界の長期的な繁栄や安定を考える上で大変重要なことです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中