最新記事

環境

強烈な臭いと有害物質...宇宙からも見える巨大さの「塊」がフロリダに向かっている

2023年3月19日(日)08時00分
モニカ・アガーワル
砂浜に寝そべる海水浴客たち

浜辺に「塊」が迫っている…(写真はイメージです) Phaelnogueira-iStock

<腐敗すると硫化水素を発生させて腐った卵のような悪臭を放ち、近くにいる人々に健康被害をもたらす恐れもあるという>

重さ610万トン、全長8000キロ以上に渡り、宇宙から観測できるほど巨大な「帯状の物体」が米フロリダ州やメキシコ湾に向かって移動している。その正体は大量発生した海藻であり、環境や生態系に悪影響を及ぼす恐れも指摘されている。

■【画像】メキシコ湾からアフリカまで大西洋を横断...超巨大な海藻の塊/陸地に打ち上げられた様子

米海洋大気局(NOAA)によると、「サルガッサム」という茶色のこの海藻は、大きな塊となって海面に浮遊する。廃水や芝生用の肥料、農業排水など、汚染物質を海に流す人間の活動が原因で発生することが多いとUSAトゥデー紙は報じている。

大西洋で発生したサルガッサムの塊は、カリブ海からメキシコ湾の沿岸を脅かしている。南フロリダ大学の科学者らは、米航空宇宙局(NASA)の協力のもと、人工衛星を使ってこの現象を追跡している。

大量の海藻が厚い層をなして海岸に接近すると、海洋生物に影響を与える恐れがある。海岸線に堆積し、遊泳区域を塞ぎ、水中の珊瑚に光が届かなくなることもある。

周辺地域の水質や大気にも悪影響を及ぼすかもしれない。サルガッサムは分解される過程で腐敗し、硫化水素を発生させるため、腐った卵のような悪臭を放つ。フロリダ州保健局によると、この臭いは人々の健康問題を引き起こす恐れがあり、喘息患者が呼吸困難になったり、目の炎症が生じたりするという。

一方でサルガッサムは、カニ、カメ、魚などの多くの回遊性海洋生物に生息地を提供すると、同局は説明している。

環境団体「サラソタ湾河口プログラム」のエグゼクティブディレクター、デイブ・トマスコはABCニュースに対し、「これ(サルガッサム)が大量に発生したビーチは楽しめない」と話し、「腐敗し、酸素を使い果たし、腐った卵のような臭いがする」と述べた。

近年は毎年のように大量発生、海水浴客に警告も

サルガッサムの塊は、陸地に到達するまでにさらに大きくなる可能性がある。到達するのは数カ月先だが、具体的にどこにやってくるかは、風や海流に左右される。ABCニュースは、南フロリダ大学のチュアンミン・フー教授の話として、海岸に向かっている海藻の量は憂慮すべきものではなく、サルガッサムは自然なものだと伝えている。

フロリダ大学光学海洋学研究所によると、サルガッサムは2011年以来、ほぼ毎年カリブ海で大量発生しているという。「2011年以降、2013年を除く毎年夏に、カリブ海に大量のサルガッサムが発生し、多くの地域で環境や生態系、経済の問題を引き起こしている」と同研究所は報告書で指摘している。

CBSニュースによると、フロリダ州保健局は、サルガッサムにヒ素やカドミウムなどの重金属類が含まれている可能性があるため、摂取しないよう警告している。同局はまた、海水浴客に対し、この海藻の近くでは泳がず、ビーチでは子供から目を離さないようにするよう呼びかけている。

サルガッサム自体は触れても問題はないが、専門家は、海藻の中に生息するクラゲなどに注意すべきだと指摘する。フロリダ州保健局は、サルガッサムに触れる際には手袋を着用することを推奨している。また、海岸近くの住居では、ドアや窓を閉めれば、有害な硫化水素が室内に入るのを抑えることができる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中