最新記事

イラン危機

ヒジャブから石油産業に飛び火したイランの反政府デモ

Will Iran Oil Worker Strike Impact Global Supply Chain?

2022年10月12日(水)17時40分
ジャック・ダットン

女性の死をきっかけに広がったイラン政府に対する抗議デモ(10月11日、トルコのイスタンブール) Murad Sezer-REUTERS

<風紀警察の手によるとみられる女性の死に対する抗議が、イランの財源を支えるエネルギー産業の労働者に波及、全土でストライキが相次いでいる。エネルギー産業の労働争議は、1979年のイラン革命の原動力だったともいわれ、政府幹部にも焦りがみえる>

22歳のクルド系女性、マフサ・アミニの死をきっかけにイランで始まった抗議活動は、10月第3週に入ってから、同国の主要産業である原油・石油化学セクターにまで拡大しており、その現場を映したオンライン動画が出まわっている。この抗議活動は、イランの原油生産とグローバルサプライチェーンに影響を及ぼす可能性があるし、体制転換にもつながりかねない。

アミニは9月13日、「ヒジャブの被り方が不適切だった」との理由で、イランの風紀警察に逮捕された。その後、3日間の昏睡状態ののち、9月16日にテヘランの病院で死亡した。

イラン当局は、アミニの死因は心臓発作だったと述べたが、遺族はそれに異を唱え、遺体にはあざなどの殴打の跡があったと主張している。国連の専門家らは、当局による拷問と虐待による暴行死だったとする立場を取った。

以来、女性の権利保護と政権交代を求める抗議活動が、イランをはじめとする世界中の国々を揺るがしている。

10月10日には、イランの都市アバダンとアサルイエにある石油・天然ガス精製所の労働者たちが抗議デモをしているところとされる動画がソーシャルメディアに登場した。石油・天然ガス産業は、核開発問題で欧米から制裁を受けているイラン政権にとって死活的な財源だ。イランの8月の石油生産量は日量257万2000バレルと伝えられる。世界の原油生産国でも屈指の量だ。

【動画】イラン体制に怒りを表す石油労働者たち

国際価格への影響は軽微?

ソーシャルメディア上の動画には、テヘランの南およそ579マイル(約932キロ)に位置するアサルイエの精製所で、数十人の労働者がデモをする様子が映っている。ある動画では、「独裁者に死を」や「恥知らず」と叫ぶデモ参加者が映っている、とAP通信は伝えている。

10月9日には、イランの司法長官で強硬派として知られるゴラームホセイン・モフセニー=エジェイーが、対話を求めるデモ参加者たちの怒りを和らげようと異例の懐柔を試みた。

「話をしよう。我々が過ちを犯したのなら、それを改めることができる」とモフセニー=エジェイーは述べたが、イラン国民の多くは懐疑的だ。

非営利組織「反核イラン連合(UANI)」の政策ディレクターを務めるジェイソン・ブロツキーによれば、抗議活動がイランの石油生産に影響を与えか否かは、現段階では不透明だという。

「大局的に見れば、既に米国から制裁を受けていることを考えると、生産量への影響は制裁がない場合と比べて限定的なものになるだろう」とブロツキーは本誌に語った。

「とはいえ、こうしたストライキが継続・激化し、複数のセクターをまたいで広がれば、労働争議と政治的な抗議活動が一体化し、イランにとっては大きな脅威になるだろう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア議会、「スパイ法案」採択 大統領拒否権も

ビジネス

米ホーム・デポ、売上高が予想以上に減少 高額商品が

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の発言要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中