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地球外生命体がいる可能性が最も高い「TRAPPIST1惑星系」、残る未確認の要素は?

Something in the Air

2022年9月15日(木)18時12分
エド・ブラウン(本誌科学担当)

「地球で見られるようなバイオシグネチャー(生命存在の証拠となる指標)を探すのであれば、植物や藻類が出す酸素やオゾンが重要なバイオシグネチャーになる。生物の活動以外のプロセスで酸素やオゾンが作られる可能性は低い」と、ドマガルゴールドマンは言う。

ただし、厄介な点が1つある。惑星の大気が酸素やオゾンを多く含んでいる場合、ほとんどが上層の雲の下に閉じ込められ、観測が困難になる可能性がある。

「もしハビタブルゾーン内にある惑星で大量の酸素が作られているとしたら、地球と同様に大きな海があり、水循環と雲の層が存在するはずだ」と、ドマガルゴールドマンは言う。「雲の層があれば、その下の酸素が存在する層は遮断されてほぼ見えない」

幸い生命存在の指標となる気体はもう1つある。地球では生物によって生成されることが知られているメタンだ(ちなみにメタンは強力な温室効果ガスの一種であり、大量のメタンを排出する牛のげっぷが問題になっている)。

もし系外惑星の大気中に、メタンとそれを分解する他の気体が混ざり合って存在することが分かれば、特に興味深い発見になりそうだ。

観測するための時間はたっぷりある

「メタンがそれを分解する他の気体と一緒に存在し、その気体が何らかの形で補給され続けているとしたら、メタンは単に存在するだけでなく、極めて急速に再生産されていることを示す指標になる」と、ドマガルゴールドマンは指摘する。「メタンが急速に分解されているのであれば、その分だけ急速に補給されているはず。それこそバイオシグネチャーだ」

TRAPPIST1系の惑星に関する画期的な発見がいつまでに実現できるかは不明だが、JWSTの寿命は推定20年なので、観測するための時間はたっぷりある。

「もし8年前、TRAPPIST1の惑星系が発見される以前に、JWSTでこのクラスの惑星系を調査するのかと聞かれていたら、私は『可能性はある』と答えたと思うが、心の中で興奮を抑えていただろう。それには完璧に近い望遠鏡と完璧に近い調査対象が必要だからだ」と、ドマガルゴールドマンは言う。「だが今は、ほぼ完璧に近いJWSTが稼働していることを知っている。そしてTRAPPIST1の惑星系は完璧に近い調査対象だ」

「生命居住可能な惑星の探査において、ハビタブルゾーン内にあるTRAPPIST1系の惑星に大気があるかどうかは最も重要な科学的問いであり、おそらく今後5~10年間、JWSTや他の機器を使って誰もが観測を行うことになるだろう」

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