最新記事

インド

インド政府が進める言論封殺に従ってきたTwitterが、明確な拒絶

2022年7月15日(金)17時50分
青葉やまと

インドでは昨年から、市民の自由を求めたりデモを支持したりするようなツイートが、法的な削除要請の対象となっていた...... REUTERS/Kacper Pempel/

<批判に耳を貸さないインド政府は、政府批判のツイートを削除することで問題を「解決」してきた>

インド政府が進める言論封殺にこれまで従っていたTwitter社が、明確な拒絶姿勢を打ち出した。政府による検閲と削除命令が不適切であると訴え、高裁に判断を委ねた。

インドでは昨年以来、市民の自由を求めたりデモを支持したりするようなツイートが、法的な削除要請の対象となっている。政府はTwitter社に対しツイートの削除を命じるほか、ときにはアカウントごと閉鎖を求めてきた。

昨年施行されたIT法は、ソーシャルメディアに対する政府の検閲権限を強化するものだ。削除命令に応じない場合、Twitter社などソーシャルメディア運営企業の幹部は、最大で7年の懲役刑に処されるおそれがある。

Twitter社はこれまで、同法に基づく削除命令を受け入れてきた。直近では7月4日を期限とする命令に対応し、政府が指定した数十のアカウントを閉鎖している。

だが、従来から言論の自由を支持する姿勢をみせてきた同社は、繰り返される削除命令に業を煮やしたようだ。同社はバンガロールが位置するカルナータカ州の高等裁判所に対し、政府が検閲権限を濫用しているとして、命令の無効を求める司法審査を請求した。

Twitter vs 政府、ついに法廷闘争へ

司法審査は、7月4日を期限としていた一部の削除命令の適法性を問うものだ。司法審査請求のなかでTwitter社は、一部の削除命令がIT法の手続き上の要件を満たしていないと指摘し、撤回を求めている。

現時点で同社は、IT法自体の無効を訴えているわけではない。だが、これまで命令を受け入れるのみだった同社が繰り出す初の反撃となる。インドのエコノミック・タイムズ紙は、「Twitter対インド政府の揉めごとが法廷闘争に発展」と報じた。記事によるとTwitter側は、「コンテンツの削除命令は権力の濫用である」と主張している模様だ。

IT法は、国家の安全保障上必要とみなされる場合などを対象に、問題のあるコンテンツの公開停止を命じる権限を政府に与えている。ただし、解釈次第では極めて広い範囲の発言に適用できることから、実質的な言論統制ではないかとの批判がある。

政権批判を許さない厳しい検閲態勢に、インドIT業界と国民は不満を蓄積させている。厳しさを増す言論封じの転換点となるか、動向が注目される。

コロナ感染爆発時の政府批判もツイート削除で封殺

昨年Twitter社が削除命令を受けたコンテンツで目立ったのは、新型コロナのまん延に対する政府の対応を批判するツイートだ。インドでは昨年春に新型コロナがまん延し、最悪期には1日あたりの新規感染者数が50万人を超えた。検査対象となっていない国民も含めると、実態としては毎日数百万人が感染していたとの見方もある。

当時政府は、政治運動や宗教上の祝祭を大々的に開催し、人々の密集防止措置を講じなかった。このため、感染爆発は政府の失態だとの指摘が相次いでいる。このような批判をかわすねらいで政府は、批判ツイートを「国家の安全保障上の脅威」とみなし、削除するよう命令を繰り返していた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

EUと米、ジョージアのスパイ法案非難 現地では抗議

ビジネス

EXCLUSIVE-グレンコア、英アングロへの買収

ワールド

中国軍機14機が中間線越え、中国軍は「実践上陸訓練

ビジネス

EXCLUSIVE-スイスUBS、資産運用業務見直
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中