最新記事

ウクライナ情勢

プーチンが招いた兵力「不均衡」...だからエリート「空挺部隊」は作戦失敗を連発した

Putin's Elite Soldiers Getting Wiped Out as Russia Makes Mistakes—U.K.

2022年5月27日(金)17時55分
ブレンダン・コール
ロシア空挺部隊

訓練中に輸送機に乗り込むロシア空挺部隊の兵士たち(2021年4月) REUTERS/Stringer

<プロの契約軍人を集めたエリート部隊のはずが、なぜウクライナでは多数の死傷者を出すばかりで結果を残せずにいるのか>

ロシア軍が誇るエリート部隊である「空挺部隊(VDV)」が、ウクライナへの侵攻において幾つものミスを犯したことは、ウラジーミル・プーチン大統領による軍への投資がいかに「全体的な能力の不均衡を招いた」かを示している──英国防省がこう指摘した。

英国防省の当局者たちは、定例の最新状況分析の中で、VDVはウクライナでの戦闘が始まって以降、「幾つもの重要な戦術上の失敗」に関与してきたと論じている。

彼らはたとえば、3月にホストメル空港から首都キーウ(キエフ)への進軍を試みたものの、あえなく失敗。4月以降、北東部ハルキウ州のイジュームでの戦況はこう着状態にあり、東部ドンバス地域ではドネツ川の横断に失敗した。

4万5000人が所属するVDVは、その多くがプロの契約軍人で構成されるエリート部隊で、最も高い能力を求められる作戦に割り当てられる。だが今回のウクライナ侵攻では、より重装備の機甲歩兵部隊の方が適している任務に割り当てられるケースが多いせいもあり、多数の死傷者を出している。

英国防省の当局者たちは、この「ちぐはぐな業績」は「ロシアがVDVの戦略的運用を誤ったことと、制空権を取れなかったこと」の結果だとした。

精密誘導兵器の不足に警鐘も

彼らは、「VDVの誤用」の状況を見れば、いかに「プーチンによる過去15年間の軍への大規模な投資が、全体的な能力の不均衡につながっているか」が分かると指摘。ロシアがウクライナ側の抵抗を予測できなかったことと「侵攻後のロシア軍司令官たちの慢心」が、エリート部隊であるVDVに「多数の死傷者を出す」結果を招いたと述べた。

一方で、米シンクタンク「軍事研究所(IWS)」では、ロシア軍の各部隊がウクライナのインフラ攻撃に航空機を使っているのは、「高精度の兵器が不足しつつある」からだと分析している。

IWSは最新の状況分析の中で、高精度の兵器が不足しつつあることから、ロシア軍の各部隊は「重要インフラを攻撃するその他の方法を模索しており、攻撃を支援するのに航空機の使用を増やしている」という、ウクライナの一般幕僚の見解を引用。この見解は、制裁によって精密誘導兵器の補充がますます難しくなっているために、ロシア軍が「ダムボム(無誘導の自由落下型爆弾)」に頼るようになっているという、西側の複数の当局者からの報告とも一致していると述べた。

この精密誘導兵器の不足が「重要な民間のインフラへの無差別攻撃の増加」を招く可能性が高いと、IWSは警告している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米5月住宅建設業者指数45に低下、1月以来の低水準

ビジネス

米企業在庫、3月は0.1%減 市場予想に一致

ワールド

シンガポール、20年ぶりに新首相就任 

ワールド

米、ウクライナに20億ドルの追加軍事支援 防衛事業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中