最新記事

韓国

韓国は監視共和国? 通話の録音やSNS個人情報漏洩の不安広がる

2022年2月2日(水)12時19分
佐々木和義

韓国の捜査機関が報道機関記者の通信を照会......朝日新聞や東京新聞のソウル支局記者も REUTERS/Christopher Pike

<韓国の次期大統領選の候補者や家族が話した音声データが次々と公開されていることなど、個人情報に対する不安が広がっている>

韓国の捜査機関「高位公職者犯罪捜査処」(公捜処)が、韓国で活動する内外記者120人以上の通信情報を照会していたことが判明し、国際新聞編集者協会(IPI)は1月25日、「言論の自由を侵害する」として徹底調査を求めた。

また、次期大統領選の候補者や家族が話した音声データが次々と公開されていることから、通話が録音されているのではないかと不安に感じる人が増え、SNSを解約する人たちも現れた。個人情報に対する不安が広がっている。

報道機関記者の通信を照会......朝日新聞や東京新聞記者も

2021年12月30日、朝日新聞は韓国の高位公職者犯罪捜査処(公捜処)が自社ソウル支局の韓国人記者の通信資料を照会したとして、公捜処に理由と経緯を明らかにするよう要求した。同記者が通信会社に情報公開を申請し、12月26日に受け取った結果通知で、公捜処が7月と8月に記者の氏名と住民登録番号、住所、携帯電話加入日などを照会していたことがわかったという。

翌31日には東京新聞も「韓国の高位公職者犯罪捜査処(公捜処)が、ソウル支局員1人の情報を照会していたことが分かった」として、公捜処に釈明を求めた。

公捜処が野党・国民の力の国会議員84人と報道機関の記者140人以上の通信資料を照会していたことが判明している。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領選候補については21年9月から10月にかけて3回、通信資料を照会しており、TV朝鮮など政権に批判的な報道機関の記者などが照会を受けたとみられている。

国際新聞編集者協会(IPI)は「公捜処が海外メディアを含めて22の報道機関の記者の通話内容に接近した。言論の自由を侵害し、取材源の匿名性を脅かす」と指摘した。

公捜処は電気通信事業法第83条による適法な通信資料提供要請だと回答したが、情報を収集した目的や範囲などの詳細は明らかにしていない。

次期大統領選に出馬する与野党候補の音声データが公開

公捜処は大統領や国会議員、自治体首長と裁判所や検察のトップなど、高位公職者の犯罪捜査を専門とする機関で2021年1月に発足した。高位者の不正を摘発してきた検察を弱体化する、現職大統領に優位な組織という批判を受けていて、逮捕や起訴の実績はない。

通信照会の乱用は、公捜処だけではないという。昨年1年間に、検察や警察などの捜査機関による通信資料の照会は548万件に上っている。

国家人権委員会は、裁判や捜査、刑の執行、国家安保の危害を防ぐための情報収集を認めた電気通信事業法第83条が個人のプライバシーを侵害するとして削除を勧告しており、16年には削除を求める訴訟が提起されたが、いまだ結論は出ていない、

情報漏洩を危惧する人も増えている。次期大統領選に出馬する与野党候補の音声データが次々と公開されたことによる。共に民主党の李在民(イ・ジェミョン)候補は実兄を罵倒した音声や兄嫁を罵倒した音声が公開され、国民の力の尹錫悦候補は妻の通話音声記録が報道された。友人と電話をする際、通話を録音しているかと尋ねる例があるという。

また、公捜処が野党議員や報道関係者の通信資料を照会した報道を受け、自身の通信資料を官憲に提供したかどうかを確認する人たちも増えている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

パリのソルボンヌ大学でガザ抗議活動、警察が排除 キ

ビジネス

日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退=元IMF

ビジネス

独CPI、4月は2.4%上昇に加速 コア・サービス

ワールド

米英外相、ハマスにガザ停戦案合意呼びかけ 「正しい
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中