最新記事

東南アジア

「ワクチン未接種者が外出すれば逮捕」 ドゥテルテがブチ切れたフィリピンの深刻な医療逼迫

2022年1月8日(土)21時22分
大塚智彦
中国製のコロナワクチンを手にするフィリピンのドゥテルテ大統領

Eloisa Lopez - REUTERS

<「またいつもの暴言か」と笑ってすまされないコロナの拡大に、台風被害の復旧も重なって──>

オミクロン株の感染拡大の影響もあり新型コロナウイルス感染者が急速に増加しているフィリピンで、ドゥテルテ大統領が「コロナワクチンの未接種者が外出すれば逮捕する」と発言し、強硬策で感染者拡大の防止を当たるよう指示を出した。

ドゥテルテ大統領はコロナ感染に関しては以前から「ワクチンを接種しないと投獄する」「マスクの消毒はガソリンを使うとよい」「ワクチンを3回打つと間違いなく死亡する」などと科学的な根拠に基づかない発言や投獄などの強権的姿勢を示して国民を混乱に陥れた経緯がある。

このため今回の「外出したワクチン未接種者の逮捕」もドゥテルテ大統領独特の「ドゥテルテ節」に過ぎない、と国民は冷静に受け止めている。

だが一方でオミクロン株を含めた新規のコロナ感染者は一時の小康状態から増加傾向に転じ「新たな波」の到来を思わせる状況になっており、病院のコロナ病床も逼迫するなど深刻な事態を迎えつつある。

ドゥテルテ大統領の発言もそうした緊急事態を重く見た結果、あるいは焦燥感の表れともみられており、フィリピンのコロナ渦は新たな局面を迎えようとしている。

深刻な病床、医療従事者の不足

フィリピン保健当局によるとフィリピンでのコロナ感染者は1月7日に新規感染者数2万1819人となり、連日1万人以上の新規感染者が確認され、累計で291万664人と300万人に迫る勢いだ。

そうした中、フィリピン総合病院関係者は1月8日にテレビ番組に出演して「総合病院の集中治療室(ICU)はほぼ満床状態にある」として、医療が逼迫しているとの認識を示した。

医療現場が直面する問題は病床という受け皿だけでなく、治療、看護などに当たる医療関係者の不足が深刻化しているという。

総合病院の場合、医療スタッフの約40%がウイルス感染あるいはその濃厚感染者となっており、コロナ患者以外の入院患者の治療にも影響が出ているという極めて厳しい状況にあるというのだ。

度重なるドゥテルテ節に国民は冷静

こうした状況に「業を煮やした」とみられるドゥテルテ大統領は6日、最小の行政単位である「バランガイ」の指導者らに対してワクチン未接種者を自宅待機とし、それに従わずに外出した場合は「逮捕」との厳しい措置を指示した。

しかしワクチン未接種者の特定をどう行うのか、また未接種者が外出した場合の逮捕の法的根拠などが明らかになっておらず、バランガイ指導者にとっては「頭の痛い大統領発言」となっているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中