最新記事

中国

習近平「賭博狩り」でマカオを窮追、恩恵を受けるのは反中のあの国

2021年12月6日(月)16時05分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)
太陽城集団(サンシティ・グループ)ロゴ

マカオのカジノは中国富裕層による資金洗浄にも利用されてきた(CEOが身柄を拘束された太陽城集団) Bobby Yip-File Photo-REUTERS

<マカオ・カジノ業界の大物が身柄を拘束され、マカオ経済の行く末に暗い影を落としている。昨年の何鴻燊(スタンリー・ホー)死去のダメージも大きい。摘発強化の理由は賭博だけではない>

マカオのよき時代は終わりに近づきつつあるようだ。

11月27日、マカオのカジノ業界の大物が中国当局に身柄を拘束された。

逮捕された周焯華(アルビン・チャウ)は、中国の富裕層をマカオに案内して賭博をさせるビジネスを大々的に行っていた太陽城集団(サンシティ・グループ)のCEO。容疑は、違法な越境賭博をオンラインで提供したというものだ。

この一件は、賭博産業への依存度が大きいマカオ経済の行く末に暗い影を落としかねない。

中国では賭博が禁止されているが、中国領のマカオでは賭博が許されてきた。しかし、中国政府による締め付けが強まっている。

周の逮捕後、太陽城の株価は48%下落。ほかのカジノ事業者の株価も5~10%落ち込んだ。業界を取り巻く環境が一層厳しくなると予想されたためだ。

マカオのカジノ業界は、新型コロナウイルス対策の移動制限により、ただでさえ難しい状況に置かれていた。

業界の収益は、2019年には月30億ドルに達したこともあったが、今は5億~10億ドル程度にとどまっている。

マカオ経済は、1999~2016年には年平均12%の驚異的なペースで成長したが、2020年に景気が急速に冷え込んだ。それでも、2021年になると景気は急回復し、観光産業と賭博産業の復活が期待された。

しかし、新しい規制に加えて変異株の流行により、その期待は打ち砕かれそうだ。

マカオのカジノ業界にとっては、業界の超大物である何鴻燊(スタンリー・ホー)を失ったことのダメージも大きい。何はマカオに近代的な賭博産業を築いた人物だったが、昨年5月に98歳で世を去った。

カジノ帝国の一部を引き継いだ娘の何超瓊(パンジー・ホー)は、中国共産党への忠誠を示しているが、政界とうまくやっていくスキルは父親には遠く及ばない。

共産党は(マカオはともかく)中国大陸で賭博が広がることを容認するつもりはない。実際、近年はオンライン賭博の摘発を強化してきた。

共産党は賭博撲滅を統治の重要な柱の1つと位置付けている。歴史上、賭博の蔓延は売春と共に、中国社会を悩ます大きな問題だったからだ。

中国当局がマカオの賭博産業に厳しい目を向けている理由は、ほかにもある。

マカオのカジノは、中国のエリート層によるマネーロンダリング(資金洗浄)にしばしば利用されてきた。中国大陸からマカオに流れ込む資金は、年間に2000億ドルを超すといわれている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア議会、「スパイ法案」採択 大統領拒否権も

ビジネス

米ホーム・デポ、売上高が予想以上に減少 高額商品が

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の発言要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中