最新記事

中国

中国の体制転換を狙う「冷戦型ゲーム」を仕掛けても、アメリカに勝ち目なし

MANAGING CHINA’S THREAT

2021年10月27日(水)15時21分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
中国共産党創立100周年式典

中国共産党創立100周年を祝う式典で大画面に映る習主席 CARLOS GARCIA RAWLINSーREUTERS

<中国で経済的な自由化が進めば民主化も進むというアメリカの考えは失敗に終わったが、政治体制をめぐるゼロサムゲームは仕掛けるべきでない>

ビル・クリントンは米大統領在任時に中国のWTO加盟を後押ししたとき、加盟が実現すれば中国に「内側から」変化をもたらすと言った。WTOの一員になることで中国は、アメリカ製品をより多く輸入するだけではなく、「民主主義の最も重要な価値観の1つである経済的自由」も受け入れる──。

「中国で経済の自由化が進むほど、市民の持つ潜在力も自由化される」と、クリントンは予測した。

だが現実は、それほどシンプルには運ばなかった。

2001年のWTO加盟から20年がたった今、中国は予測以上の経済成長を遂げた。だが、民主主義に移行したとは到底言えない。アメリカの指導層は「経済の自由が政治の自由につながる」という前提に自信を失い、今では欧米の民主主義国が中国の影響を受けることを危惧している。

バイデン米大統領はこの夏、欧米と中国との争いを「世界中の専制国家との闘い」と定義した。冷戦時代と同様の論理で、最後に残る政治体制は1つということらしい。

中国もおおむね、これと同じ世界観のようだ。欧米の人権重視の姿勢を、自国の政治的安定に対する脅威と見なしている。

アメリカは慎重になるべきだろう。今や中国は超大国で、その経済は世界の成長と繁栄を支えている。中国の体制が根本的に変化するようなことがあれば、平和的な移行にはならない可能性がある。そうなれば、影響は世界中に及ぶ。

もちろん中国共産党が許さない限り、そうした変化は訪れない。共産党は改革の芽を、ことごとくつぶしている。

目的に沿った資本主義の利用

中国共産党は権力の独占など自らの目的に沿う形で、ある種の資本主義を使うことに成功している。経済成長は一党独裁制に、政治学者のサミュエル・ハンチントンが言う「業績に基づく正統性」を与えている。しかし一方で、経済の急激な減速が起きれば、この状態が覆ることもあり得る。

経済運営がこのまま成功することが、共産党にとって問題となる可能性もある。アメリカの指導層が抱く「経済的自由が独裁制を弱める」という前提は、あながち間違いではない。かつてスペインのフランコ独裁政権では、まさにそうしたことが起きた。経済的繁栄と国外との接触の増加は、専制国家の内部に不満を蓄積させることがある。

だからこそ中国共産党は、高いコストをかけても経済の完全な自由化を抑え込み、国家部門を温存し続けている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中