最新記事

インフルエンザ

米国ではこの冬にインフルエンザが流行するおそれ......その意外な理由とは

2021年10月12日(火)19時10分
松岡由希子

インフルエンザの流行が平年に比べて深刻になりそう...... demaerre-iStock

<2020年〜2021年冬期のインフルエンザ感染者数の減少が2021年〜2022年冬期にもたらす影響を感染症の数理モデルを用いて予測した>

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の推定によると、米国では2010年以降、年間900万人から4100万人がインフルエンザに罹患し、そのうち14万人から71万人が入院し、1万2000人から5万2000人が死亡している。

一方、コロナ禍の2020年〜2021年冬期には、マスク着用の義務化や移動制限、ソーシャルディスタンスの確保など、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策が講じられた結果、インフルエンザの感染者数が大幅に減少した。

2020年9月28日から2021年5月22日までに米国で確認されたインフルエンザウイルスの感染者数は1675人で、入院者数も2005年の統計開始以来最少であった。また、インフルエンザで死亡した子どもは1人で、子どもの死亡者数が199人と最多であった前年シーズンを大きく下回っている。

インフルエンザへの集団免疫が低下した

米ピッツバーグ大学公衆衛生大学院公衆衛生ダイナミクス研究所は、2020年〜2021年冬期のインフルエンザ感染者数の減少が2021年〜2022年冬期にもたらす影響を感染症の数理モデル「FRED」と「SEIR」を用いてそれぞれ予測し、2021年8月、2本の査読前論文を「メドアーカイブ」で公開した。

いずれの予測でも、2020年〜2021年冬期の感染者数の減少に伴ってインフルエンザへの集団免疫が低下したことにより、2021年〜2022年冬期はインフルエンザの流行が平年に比べて深刻になることが示されている。

「FRED」を用いた予測では、現在人口の家庭や職場、学校、地域での交流をもとにシミュレーションした。その結果、2021年〜2022年冬期は、米国のインフルエンザの感染者数が平年に比べて約20%増加し、最悪のケースでは2倍にまで増えるおそれがあると示された。感染者数は900万人から4500万人にのぼると予測されている。ただし、平年50%程度のインフルエンザワクチン接種率をさらに10%高めれば、感染者数を4.4%〜35.7%減少させ、入院者数を6.5%〜45.5%減少できるという。

「SEIR」による予測では、人口をインフルエンザに感染しやすい人、感染者、回復者、入院者、死亡者に分け、2021年〜2022年冬期の感染状況をシミュレーションした。その結果、ワクチン接種率やその効果に変化がなければ、2021年〜2022年冬期にインフルエンザで入院する人は平年に比べて10万2000人増え、約60万人にのぼると予測。入院者数を平年並みに抑えるためには、インフルエンザワクチン接種率を75%にまで引き上げる必要がある。

インフルエンザで入院する人が平年より約50万人増加するおそれ

これら2本の研究論文の責任著者で公衆衛生ダイナミクス研究所のディレクターを務めるピッツバーグ大学のマーク・ロバーツ特別教授は「感染性の高い株が主流となり、インフルエンザワクチン接種率が低下するという最悪のケースでは、この冬にインフルエンザで入院する人が平年よりも約50万人増加するおそれがある」と警鐘を鳴らしている。そして、「可能な限り多くの人々がインフルエンザワクチンを接種することは、このような最悪のケースを避けるうえで重要だ」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中