最新記事

ミャンマー

ミャンマーに厳しい議長声明を発表 ASEAN首脳会議 、ミャンマーは異例の欠席

2021年10月27日(水)17時25分
大塚智彦

今回ASEANがミャンマー問題でここまで踏み込んだ内容で、さらにミャンマー代表が欠席したことで全加盟国による賛成が成立しないまま発表した議長声明は、これまでのASEANの「内政不干渉」「全会一致」という伝統的な原則に踏み込んだ異例の議長声明となり、ASEANのミャンマー問題に対する並々ならない決意と仲介・調停に臨む強い意欲を反映するものといえるだろう。

ただ一方でこうしたASEANの強い姿勢がミャンマーの首脳会議欠席という前例のない事態を招いたことも事実で、ASEANとして今後ミャンマーを会議の席に戻すための方策を探る必要に迫られることになる。

今回の一連の会議終了後に持ち回りのASEAN議長国はカンボジアに代わることになる。ASEAN加盟国で最も中国に近いとされるカンボジアだけに、中国を後ろ盾としているミャンマーに対してどこまで指導力、影響力を発揮できるが焦点となる。

また今後の展開次第ではミャンマーのASEAN脱退という最悪の事態もありうる状況だったが、ミャンマー軍政は26日夜に「ミャンマーは今後も5項目合意の実現などを通じてASEANと建設的に協力し続ける」として、ASEANに留まり事態打開に向けて協力する姿勢を示したことでその懸念は取り合えず払拭された。

米中対立への対応も求められる

26日にはASEAN首脳会議に続いてASEANプラス米の首脳会議も開催されバイデン米大統領が参加し「軍事クーデターは恐ろしい暴力だ」とミャンマー軍政を批判した。米大統領のASEAN会議への参加は2017年以来4年ぶりとなる。

27日以降、ASEANプラス日中韓会議に加えて米、インド、豪、ニュージーランド、ロシアなども参加する東アジアサミットという一連の会議ではミャンマー問題以外に加盟国すべてが抱える新型コロナウイルスの感染対策とワクチン接種の問題、さらに中国が一方的に権益拡大を進めてASEANのベトナムやフィリピン、マレーシア、ブルネイなどとの間で領有権問題が起きている南シナ海の問題も協議される見通しだ。

特に米中も参加する東アジアサミットでは、米中それぞれの主張が対立する可能性もあり、ASEANとしてどうまとめるかにも注目が集まっている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用コスト、第1四半期1.2%上昇 予想上回る

ワールド

ファタハとハマスが北京で会合、中国が仲介 米は歓迎

ビジネス

米マクドナルド、四半期利益が2年ぶり予想割れ 不買

ビジネス

米CB消費者信頼感、4月は97.0に低下 約1年半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 9

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 10

    日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退──元IM…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中