最新記事

ディズニー

ディズニー映画から「本物の悪役」が姿を消したのはなぜ? いつから?

Disney’s Defanged Villains

2021年6月18日(金)17時42分
ジェシー・ハッセンジャー(カルチャー・ライター)

210622P48_DAY_02.jpg

『バットマン・フォーエヴァー』は悪役コンビが話題に ALBUM/AFLO

正統派の悪役の衰退はスーパーヒーロー映画の変遷と重なる。『バットマン』シリーズを筆頭に、1990年代のスーパーヒーロー物では極悪な怪物がケレン味たっぷりに大暴れし、主人公より目立つほどだった。

例えば95年の『バットマン・フォーエヴァー』。トゥーフェイスの悲運とリドラーの自己顕示欲は哀愁を感じさせたが、それぞれを演じたトミー・リー・ジョーンズとジム・キャリーは共感を呼ぶために抜擢されたわけではない。どちらも手本にしたのは、89年の『バットマン』でジョーカー役のジャック・ニコルソンが見せた怪演だ。

対照的に、2000年代に始まったディズニーのスーパーヒーロー・シリーズ、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)は常々、悪役の影が薄いと批判されてきた。確かに『アントマン』の悪役(コリー・ストール)を覚えている人はいないだろう。

もっともディズニーはこうした枠組みの中から、時おり真に陰影豊かな悪役を誕生させる。その1人が『ブラックパンサー』のエリック・キルモンガー。マイケル・B・ジョーダンの胸に迫る演技はキルモンガーの憤りに説得力を持たせ、敬意すら抱かせた。

観客の心をつかむ悪党の条件は?

『スター・ウォーズ』続3部作の悪役カイロ・レンは、葛藤する姿が魅力。実力派アダム・ドライバーがニヒルなすごみを発散しつつ少年の繊細さをにおわせて、観客の心をつかんだ。

一方、共感を呼ぶ目的で作り込まれた実写版のクルエラに、もはやオリジナルの面影はない。『クルエラ』はヒロインが闇に落ちた経緯を掘り下げることをせず、単純に彼女から邪悪さを消し去った。

ストーン演じるクルエラはオリジナルのクルエラというよりも、『バットマン リターンズ』でミシェル・ファイファーが演じたキャットウーマンに近い。キャットウーマンに怪人ペンギンの哀れな生い立ち話を付け足した感じ、といったところだ。

キャットウーマンやペンギンは少なくとも危険な悪者だが、クルエラは正義の味方をやっつけたりしない。むしろ彼女の憧れの人であり、上司、ライバルとなるバロネス(エマ・トンプソン)のほうが一枚も二枚もうわての悪女だ。

映画はヒロインがアンチヒロインになった瞬間すら描かない。ただエンドロールの途中で彼女がもう1人の自分になることを誓い、これからは悪逆非道になることをほのめかす、ほとんど無意味な場面が挿入されるだけだ。

クルエラはストーンのはまり役だが、変人ぶりを力演し過ぎて邪悪さを出せなかった感もある。いずれにせよ、観客席で眺める分にはストーン版クルエラは文句なしに楽しいし、バロネス役のトンプソンもいい味を出している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中