最新記事

隕石

イギリス上空に大火球、落下片から生命の構成元素を検出

2021年3月15日(月)18時15分
青葉やまと

イギリスが騒然となった大火球の落下片は、はやぶさ並みの貴重な試料だった......    Image: Natural History Museum

<英イングランド地方の夜空を特大の火の球が照らし、住民たちは騒然となった。この大火球は研究者たちをも驚かせることになる。地上に落下して隕石となったその破片に、生命の源となり得る物質が含まれていたのだ>

特大の流星(火球)が現地時間2月28日の夜10時前、イングランド南西部の静かな夜空に突然姿を現した。彗星のような黄緑色の尾を引きながら6秒ほどにわたり輝き、やがて地上方向へと姿を消している。

非常に明るい閃光を放っており、目撃範囲はイギリス国内に留まらない。宇宙関連情報を扱う『スペース・コム』は、アイルランドからオランダに至るまで広い範囲で観測されたと報じている。流星の観測情報を統括する国際流星機構には、900件を超える目撃情報が寄せられた。

Meteorite was seen in all cities of England, footage of the meteor falling over London, Bristol

ロンドン自然史博物館のスタッフが主催する「イギリス火球連合」ではまさに今回のようなケースに備え、観測用のカメラ30台以上を運用している。その甲斐あって、うち6台が今回の大火球を捉えることに成功した。さらに一般の市民からも、ドライブ・レコーダーや監視カメラなどに映り込んだ鮮明な光跡の映像が寄せられている。こうした映像を分析したところ、当時の速度は時速約4万8000キロに達していたことが明らかとなった。宇宙デブリやミサイルなどにしては速すぎるスピードだ。

チームは映像をもとに宇宙空間での元々の軌道を割り出し、主に火星と木星の付近を楕円状に周回していたことが判明した。これらの事実をもとに科学者たちは、閃光の正体は大気圏に落ちた小惑星だとの推論に至る。しかし、この時点では多くの人々がその希少さに気づいていなかった。

ドスンという衝撃で住民目覚める

小惑星は大気との摩擦で激しく燃焼したものの、燃え残ったいくつかの破片が地上に到達した。その多くは、イングランド地方のコッツウォルズに位置するチェルトナムの町の近郊に降り注いだものと見られる。同地はロンドンから電車で2時間少々の場所にあり、温泉保養地として知られるほか、競走馬の祭典でも有名な美しい田舎町だ。

突然の隕石の飛来に、のどかな町の住人たちは大いに驚いたことだろう。英テレグラフ紙は、隕石の発見の経緯を次のように報じている。「コッツウォルズに住むある一家がぐっすりと眠り込んでいたところ、ドスンという凄まじい音で目が覚めた。この時点では彼らはその原因となる物体が、地球上で生命が形成された経緯を解き明かす鍵になるかもしれないことなど知る由もなかった」。民家の敷地内の車道に激しく衝突し、それに気づいた一家が回収したようだ。

見つかったのは親指の先より一回り大きなサイズのゴツゴツとした石で、色はかなり黒く、まるで敷きたてのアスファルト道路のような色合いをしている。一家の行動のおかげで隕石は風雨にさらされることなく、ロンドン自然史博物館に運び込まれる。分析結果は驚くべきものだった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ総司令官、東部前線「状況悪化」 ロ軍攻勢

ビジネス

米GM、コロンビアとエクアドルで工場閉鎖 次世代車

ビジネス

ドル円が急上昇、一時160円台 34年ぶり高値更新

ワールド

米国務長官、29日からサウジ・イスラエルなど訪問 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中