最新記事

ポピュリズム

トランプは生き延び、極右思想は世界に拡大し続けている

FAR-RIGHT EXTREMISM IS A GLOBAL PROBLEM

2021年2月16日(火)11時25分
ヘザー・アシュビー(安全保障・外交専門家)

圧政がもたらした副次効果

ハンガリーでは移民排斥を掲げるオルバン・ビクトルが2010年に首相の座に返り咲き、大量に流入する難民、特にイスラム教徒がヨーロッパを乗っ取ると危機感をあおって、強権支配を敷いた。

オルバン政権と与党は法律を変えて官僚の生殺与奪権を握り、権威ある学術団体を事実上解体し、報道機関に圧力をかけ、「ハンガリー人の民族的な連帯」を錦の御旗にして民主主義を大きく後退させた。

これに反発して大規模な抗議デモが起きたが、政権側はハンガリー出身の投資家ジョージ・ソロスが仕組んだデモだと強弁。野党は民意を追い風に、2022年の総選挙でオルバン政権を倒そうと幅広い連合を結成している。

インドでは2014年にヒンドゥー至上主義政党「インド人民党」(BJP)を率いるナレンドラ・モディが首相に就任。モディはグジャラート州首相時代の2002年にヒンドゥー至上主義者によるイスラム教徒襲撃を黙認ないしは後押しした疑いを持たれ、米政府に入国を拒否された人物だ。

中央政府の首相になった今は国際社会に受け入れられているものの、BJP内の最も極端なヒンドゥー至上主義者たちと親和性を持ち、イスラム教徒を排斥してインドをヒンドゥー教の国に変えようとしている。

例えばBJPが牛耳る議会は2019年、市民権法の改正案を可決。これにより周辺国で宗教的な迫害を受けてインドに逃れた難民に市民権が付与されることになったが、イスラム教徒だけはこの規定から除外されている。

こうしたなか、モディ政権のプロパガンダに対抗する動きも起きている。ニュースサイト「オルトニュース」もその1つ。政治家のコメントや新聞記事などのファクトチェックを行い、誤誘導やデマがあれば市民に知らせている。

ブラジルでは極右のポピュリスト、ジャイル・ボルソナロが過去の輝かしいブラジルを復活させると誓って2018年の大統領選に勝利。2019年初めに就任するや国営企業の民営化、先住民保護区の開発推進、治安対策の強化、政治活動の規制といった政策を次々に打ち出す一方、ソーシャルメディアを活用して支持を広げた。

「ブラジルのトランプ」と呼ばれるボルソナロはトランプ支持を公言し、2020年の米大統領選ではトランプの再選を望むとエールを送りもした。

皮肉にも、ブラジルの民主主義を骨抜きにするボルソナロの圧政や暴言は思わぬ副次効果をもたらした。社会の片隅に追いやられていた人々が政治に関心を持つようになったのだ。黒人女性が人権擁護や差別撤廃を掲げて次々に選挙に出馬している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシアGDP、第1四半期は前年比4.2%増 輸

ビジネス

大和証G、26年度までの年間配当下限を44円に設定

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ弾道ミサイル発射=韓国軍

ワールド

ロシア、対西側外交は危機管理モード─外務次官=タス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中