最新記事

ISSUES 2021

ジャレド・ダイアモンド寄稿:人類はコロナ禍をチャンスに変える

2020年12月24日(木)16時15分
ジャレド・ダイアモンド(カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授)

magSR20201224hintsofsalvation-2.jpg

大量の化石燃料を消費する中国・北京のラッシュアワー(2020年4月8日) TINGSHU WANG-REUTERS

だが、よく考えれば利己的な自国優先策は自殺行為だ。たとえある国が短期的に自国内で新型コロナを撲滅できたとしても、その脅威から完全に解放されるわけではない。グローバル化された今日の世界では、新型コロナはウイルスを制圧できていない国から再び侵入してくる。

ニュージーランドやベトナムがいい例だ。両国は厳格な措置によって国内の感染を抑え込んだが、外国からの帰国者が新たなウイルスを持ち込んでいる。

ここから重要な結論を導き出せる。全ての国が新型コロナの脅威から解放されるまで、どの国も安全ではない。このパンデミック(世界的大流行)はグローバルな問題であり、グローバルな解決策が必要だ。

個人的には、この事実を前向きに捉えている。

私たちはほかにも、グローバルな解決策を必要とするグローバルな問題に直面している。特に気候変動、世界的な資源の枯渇、そしてグローバル化が多くの国にもたらした格差による社会の不安定化だ。

どの国も国内でウイルスを撲滅しただけでは新型コロナの脅威から自由になれないのと同じように、どの国も国内で化石燃料への依存度を下げ、温室効果ガスの排出量を減らすだけでは、気候変動の脅威から身を守ることはできない。新型コロナと同様、大気中の二酸化炭素も政治的な国境を気にしない。

さらに気候変動、資源の枯渇、格差が私たちの生存と生活にもたらす脅威は、パンデミックよりもはるかに深刻だ。

地球上の全人類が新型コロナに感染する最悪のシナリオでも、死亡率を2%と仮定して死者の合計は「たったの」1億5400万人。75億4600万人はまだ生きている。人類の生存を保証するのに十分過ぎる人数だ。気候変動、資源の枯渇、格差が示唆する全人類的危機に比べれば、新型コロナも小さな問題にすぎない。

だとすれば、より穏やかな新型コロナの脅威が私たちを行動に駆り立てているのに、なぜ気候変動やその他の地球規模の脅威に対しては腰が重いのか。答えは明らかだ。

新型コロナが私たちの注意を引くのは、はっきりと目に見える形で犠牲者を素早く(数日から数週間以内に)病気にしたり殺したりするからだ。

対照的に気候変動は食料生産の減少、飢餓、異常気象、熱帯病の温帯地域への蔓延拡大など、間接的な変化を通じて私たちをゆっくりと、はっきりと目に見えない形で滅亡に追い込んでいく。そのため私たちは、気候変動をグローバルな対応が必要なグローバルな脅威としてなかなか認識できなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中