最新記事

中国

中国輸出管理法――日本がレアアース規制対象となる可能性は低い

2020年12月4日(金)19時52分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

日本の領土である尖閣諸島は、中国にとってはアメリカから中国を守るための防御線である第一列島線の最大の根拠地に相当する。台湾を自分の政権の間に統一したいと思っている習近平国家主席は、あらゆる手段を使って「尖閣諸島を取りに来る」だろう。

それを見抜けず習近平を国賓として日本に招聘しようという、一部の政府与党のもくろみは、日本の国益と尊厳を甚だしく損ねる。

中国輸出管理法第一章「総則」の第一条には、「中国の国家安全と利益を守るため」とあるが、この「国家安全」に領土問題を含めるのは違反であり、またさすがに中国も輸出管理に領土問題まで含めるとは書いてない。

尖閣諸島が日本の領土であることは中国建国の父・毛沢東も認めているので(詳細な資料は拙著『チャイナ・ギャップ』p.138~p.150参照)、毛沢東回帰をしていると言われる習近平には、「あなたの尊敬する毛沢東が『尖閣諸島は日本の領土だ』と認めていますよ」と優しく諭してあげるといいのではないだろうか。拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』に書いた通り、毛沢東は「皇軍」に感謝し、死ぬまで「抗日戦争勝利記念日」を祝賀したこともなければ、いわゆる「南京大虐殺」を教科書に載せることも許さなかった。その事実を日本は直視し、領土に関しては一歩たりとも譲ってはならない。

日本はTPP11というカードを持っている

中国がTPP11に加入したいという強烈な希望を持っていることは11月23日付コラム<中国TPP参加意欲は以前から――米政権の空白を狙ったのではない>や11月27日付け論考<中国TPP参加表明の本気度――中国側を単独取材>等に書いた通りだ。

なんとしてもアメリカがTPP(元のTPP12)に戻ってくる前にTPP11に入りたいと思っている習近平は、TPP11の中でGDP規模が最も大きく、またTPP11成立に懸命に努力した日本を、TPP11のリーダー的存在だと見ているので、実は「日本のご機嫌伺い」をしなければならない立場にある。

このようなチャンスは滅多に巡ってこない。

だから日本はこの強烈なカードを最大限に発揮して、中国の輸出管理法から日本国と日本企業を守らなければならないのである。

「なんでしたら、TPP11に加入する時の交渉を厳しくしますよ」ということをちらつかせて、他のTPP11のメンバー国と緊密にタイアップすることを強化していかなければならない。

こうして中国に圧力を掛けていく。

その姿勢でなければ菅政権は日本国民を守ることはできないということを肝に銘じるべきだろう。

中国輸出管理法に関してはさまざま書きたいことがあるが、今回は「日本がレアアース規制対象国になるか否か」に関してのみ述べるに留めておきたい。

(なお本コラムはシンクタンク中国問題グローバル研究所のウェブサイトから転載した。)


中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

旧ソ連モルドバ、EU加盟巡り10月国民投票 大統領

ワールド

米のウクライナ支援債発行、国際法に整合的であるべき

ワールド

中ロ声明「核汚染水」との言及、事実に反し大変遺憾=

ビジネス

年内のEV購入検討する米消費者、前年から減少=調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中