最新記事

香港

【香港人の今2】「殴り殺す」と警察に脅された友人が、台湾密航に失敗した・20歳勇武派

RISING LIKE A PHOENIX

2020年11月26日(木)19時30分
ビオラ・カン(文)、チャン・ロンヘイ(写真)

magHK20201126-2-3.jpg

弁護士 彭皓昕(30代前半) PHOTOGRAPH BY CHAN LONG HEI

弁護士 彭皓昕(30代前半)

香港国家安全維持法の施行翌日、その条文で10人が逮捕された。施行からわずか12時間で、彭皓昕(ジャネット・パン)は弁護士ボランティアとして警察署へ行き、逮捕者の面会を要請した。逮捕者も弁護士も、警察も条文をよく理解できていなかった。

何年も弁護士を務めてきた彼女は、法治の原則を信じてきた。だが、同法には2つ重要な問題があった。1つは立法過程。内容も公表されないまま、この法律は直接香港に飛んできた。

もう1つは制限なき権力。「香港で判決の出ていない人は保釈の権利を持つ。しかし同法では、国家の安全に危害を与えない前提でなければ、裁判官は保釈決定も下せない」

この法律で香港の法治の原則はひっくり返された。有罪の定義も明確でない条文に対し、コモンロー(一般法)の訓練を受けた香港の弁護士たちは逮捕者へ有効な法的助言ができない。対する法執行機関は、発言ひとつで一方的に有罪にできる。

デモのさなかの昨年7月に起きた市民襲撃事件をきっかけに、海外から戻って弁護士を続けたいと決心した。「弁護士である前に香港人。時が来て、私たちの世代が選ばれた。ならば、立ち向かうしかない」

magHK20201126-2-4.jpg

教師 余子游(30代後半) PHOTOGRAPH BY CHAN LONG HEI

教師 余子游(30代後半)

昨年6月から1年間で、香港教育局に届いた教師の服務違反に関する苦情は200件を超え、なかでも政治関連の「不適当な」SNS投稿への苦情が多かった。

香港国家安全維持法が施行されてから、余子游(ユー・ツー・ヤウ)の学校では親政府派の教師が職員室で勝利者のように振る舞うようになった。そして最近、香港独立に関する宿題を作ったある「通用知識科」教師がクレームを受け、初めて政治的原因で教師資格を剝奪された。

通用知識科とは、香港の中学生の選択科目かつ高校生の必修科目で、社会への認識と批判思考を形成する授業内容だ。ただし今学年から中学の通用知識科は生活・社会科と改められ、教科書から香港や中国に対する批判的な内容が消えた。

「幸い、こういう教科書は推薦書にすぎない。教師は手作り教材で講義する余地がある」と、同教科教師の余は言う。

ただ、教育の自由が狭まることで、教師と生徒と保護者の関係は壊される。それでも生徒のため、彼はネガティブの中にポジティブを生み出そうとしている。

「生徒たちに希望を見せたい。彼らに教育できるのは僕しかいないから、最後まで戦わないと」

<2020年11月24日号掲載>

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中