最新記事

中台関係

中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ掛けの強硬姿勢と内部腐敗の実態

Taiwan’s Military Not Ready for China

2020年9月25日(金)16時00分
ポール・ホアン(ジャーナリスト)

蔡英文総統(中央)と厳徳発国防部長(左から2番目)の下で軍は深刻な機能不全の状態に TYRONE SIU-REUTERS

<アメリカ製の最新兵器をひけらかし万全の体制で中国を迎え撃つと息巻く台湾政府......実際には戦車は壊れ、自腹で修理部品を調達するよう若い兵士に強要する始末>

中国は台湾海峡周辺に軍隊を集結させ、台湾島の奪還には「手段を選ばない」と息巻いている。アメリカとその友好国としては、台湾が自力で中国軍の侵攻を食い止めてくれると信じたいところだ。

しかし現実は厳しい。今の台湾には現役の兵士が少な過ぎ、予備役の動員システムもお粗末過ぎる。それだけではない。驚くなかれ、保有する戦車の半数はまともに動かない。実戦で使えそうな武器はもっと少ない。

そのせいで、中国軍と砲火を交える前から尊い人命が失われている。政治家は血税で買ったアメリカ製の最新兵器をひけらかすが、軍の補給体制は旧態依然。だから、メンテナンスに必要な部品を自腹で買い求めていた若い将校が絶望して自ら命を絶った。

黄志劼(ホアン・チーチェ)は台湾軍の中尉だった。徴兵で入隊し、当初は空挺部隊に配属されたが、志願して将校になる道を選んだ。今は「将校なんて責任ばかり重くて給料は安い」と思われている時代なのに、だ。

黄は第269機械化歩兵旅団に配属され、補給物資の倉庫の担当係になった。台湾軍が徴兵制から志願制への困難な移行に直面していた時期に、彼は大学教育を受けたエリートでありながら、自らの意思で軍隊にとどまる選択をし、職業軍人となった。政府にとっては願ってもないモデル兵士だった。

だが4月16日の夜、黄(当時30歳)は基地の食堂近くの暗い階段で首をつった。黄の母親が正式な調査を訴える蔡英文(ツァイ・インウェン)総統宛ての書簡をフェイスブックで公開するまで、その死はメディアでも全く伏せられていた。

黄の母親は記者会見で、息子が上司からしごかれ、修理部品が足りないなら自腹で調達するよう、上官から圧力をかけられていたと訴えた。

実際、黄は市販の修理用ハンマーや消火バケツなど多くのアイテムを購入して、なんとか足りない物資を補おうと苦労していた。

議会の公聴会に呼ばれた国防部長の厳徳発(イェン・トーファー)は「兵士が自費で備品を購入することは軍規に反する」と述べた。「何かが壊れたり、欠損した場合は、必要な書類を作成し、しかるべき部署に提出して代替品を要求すればいい」

この発言、現場の将校や兵士には悪い冗談にしか聞こえなかった。実際、同じ公聴会で軍の監察官は厳の発言を否定し、部品を自腹で買ってこいという上からの圧力を兵士が受ける事例は「何度もあった」と認めている。黄の死後、彼の担当していた倉庫を調べた監察官は、少なくとも31種類の部品が補充されていないことを確認した。

ちなみに、この第269機械化歩兵旅団は後方支援の部隊ではない。台湾北部の桃園市郊外に戦略的に配置された精鋭の戦闘部隊だ。中国軍が台湾に上陸し、首都・台北へ向けて進軍する事態に備え、地上戦でそれを阻止するのが任務とされている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中