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インドネシア、イスラム教カリスマ指導者襲撃される 刃物で負傷、犯行の背景にあるものは

2020年9月15日(火)19時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)

インドネシアは世界第4位の人口約2億7000万人の88%がイスラム教徒という世界最大のイスラム教徒大国であり、そのイスラム教のカリスマ指導者がナイフで襲われるという今回の事件はあまり前例のない事件だけに大きな衝撃をもって受け止められている。

政府、イスラム教団体が即座に犯行非難

「インドネシア・イスラム指導者(ウラマ)評議会(MUI)」のアッバス師は直ちに声明を発表して「イスラム指導者へのこうした襲撃は平和への敵対行為であり、社会の安寧を破壊する行為である。イスラム教において尊敬されるべきウラマの命が危険にさらされることは憂慮すべき事態である」として政府と治安当局に事件の真相解明を求めた。

一方政府も素早い対応をみせ主要閣僚の1人であるマフード調整相(政治法務治安担当)が「シェ・アリ師への攻撃はインドネシアの平和に対する敵によるものであり、統一を破壊するものである。公正な法の裁きとともに背後関係を明らかにしなければならない」と述べ、治安当局に全国で活動するイスラム教指導者の身辺安全確保を指示したことを明らかにした。

インドネシアでは爆弾によるテロや自爆テロ、銃撃などはイスラム教テロ組織の常とう手段として以前から犯行の事例はあったが、刃物による襲撃はテロの手法としては珍しい部類に入るという。

2019年10月に首都ジャカルタ近郊バンテン州で当時のウィラント調整相(政治法務治安担当)がナイフで腹部を刺される事件が発生した。この時の容疑者はその後の調べでISに感化され、インドネシアのテロ組織「ジェマ・アンシャルット・ダウラ(JAD)」と関係があるテロリストであることが判明している。ここ数年で刃物による要人襲撃はこのウィラント調整相以外には報告されていないという。

今回はイスラム教の指導者を狙った犯行であることからイスラム教テロ組織と事件を直接関連付けるのは現時点では難しいとの見方がある。

しかし一方で、シェ・アリ師は数多くのテレビ番組や雑誌、新聞に登場してイスラム教を説くカリスマ的指導者として人気が高かったことなどから怨恨や逆恨みといった私的な動機、さらに「イスラム教をビジネスにしている」との曲解に基づく襲撃の可能性もありうるとして今後の犯行動機の解明が待たれている。

インドネシアはコロナ禍による感染者と死者数の増加が深刻化しており、首都ジャカルタ州政府は14日から「大規模社会制限(PSBB)」の緩和策を撤回して、厳しい制限を再度布告するなど、コロナ対策に四苦八苦しているのが現状だ。

それだけにこれまで安全とされてきたイスラム教指導者への襲撃事件が実際に起きたことで、政府や治安当局はさらなる対応策が迫られることになった。


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大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


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