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ポンペオ猛攻──同盟国に香港犯罪人引渡し条約の停止要求か

2020年7月24日(金)20時42分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

7月3日にはカナダが、7月9日にはオーストラリアが、それぞれ香港との犯罪人引渡し条約を停止すると表明している。

まず同盟国に次々に意思表示をさせて、「大御所」であるアメリカは最後に何かしら大きな交換条件でも出してきて「さあ、アメリカも犯罪人引渡し条約を停止するぞ」と、中国に付きつけるつもりだろう。

当該条約破棄とは別に、アメリカは7月22日、テキサス州ヒューストンにある中国領事館の閉鎖を言い渡した。中国はこれに対して、必ず対抗措置を取ると激しい抗議を表明していたが、今このコラムを書いている時点では、どうやら四川省成都にあるアメリカ総領事館を閉鎖するらしい。

翻ってわが日本国は、いったい何をしているのか?

安倍政権は、習近平を国賓として招聘するのをコロナで「延期した」だけであって、まだ「中止した」とは言っていない。安倍首相は「問題があるからこそ、会って話し合う必要がある」などと詭弁を弄しているが、「会って解決する問題」など存在しない。

中国はむしろ、「安倍が会いたがっている」というのを良いことに、「今なら文句言えまい」として尖閣諸島の接続水域を中国の公船が100日連続で侵犯しているのである。

海上保安庁のホームページにある「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」をご覧いただければ一目瞭然。中国の公船等の侵犯は、2008年から始まっている。これは日中首脳会談(胡錦涛vs.福田康夫)が行われた年で、東シナ海を「平和の海」などと提唱した時である。

だから「日本側は文句を言わないでしょ?」というのが、中国のやり方だ。

安倍政権は一刻も早く習近平の国賓招聘を「中止する」と宣言すべきである。

そうすれば中国は突如、アメリカの存在を恐れ始める。中国の軍事力は現段階ではまだアメリカに勝てないのだから。

安倍政権は選挙の票欲しさに北京の顔色を伺い、中国経済に依存するのを見直すべきではないだろうか。

このままでは民主主義が泣く。

死んだのは香港の民主ではなく、それもあるが、日本の民主ではないかと憂う。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(実業之日本社、8月初旬出版)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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