最新記事

台湾

【香港危機】台湾の蔡英文がアジアの民主主義を救う

Why Taiwan’s Assistance to Hong Kong Matters

2020年7月3日(金)17時00分
シーナ・チェストナット・グリーテンス、アラム・ハー

民主主義を守るため世界の「新たな前線」に立つ蔡英文総統 Ann Wang- REUTERS

<台湾の蔡英文が香港からの移住希望者を受け入れると発表したのは単なる人道支援ではなく、国際社会の一員となるための戦略的な意図もはらんでいる>

中国政府が香港の統制を強める「香港国家安全維持法」を成立させたことを受けて、台湾政府は7月1日、香港市民を対象とした新たな人道支援計画および移住計画を正式に発足させた。

国家安全維持法は6月30日に、全人代の常務委員会で全会一致で可決・成立。香港警察は既に、同法に基づいて複数の市民を逮捕している。

台湾の蔡英文総統は、2期目に突入して直後の5月下旬に、香港からの移住希望者を支援する考えを表明。立法院(議会)に対して「人道的な支援行動計画」の策定を求めていた。6月には対中政策を担当する大陸委員会が計画の詳細を発表し、同計画は民主主義と自由、人権を支持する台湾の姿勢を示すものでもあると位置づけた。中国の台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室は、これに強く反発。「香港に混乱をもたらす暴徒らを引き受けることは、台湾市民にとって有害でしかない」と警告した。

今回の台湾の計画は、迫害を受ける香港市民のための単純な支援計画に思えるかもしれないが、実は見かけ以上に戦略的な意図をはらんでいる。台湾の行動は、ほかのアジア諸国とは一線を画すナショナリズムを強く反映しており、アジアの力関係を根本から変える可能性もある。

「民族統一」とは一線を画す

台湾のアプローチの独自性を説明するには、比較を用いるのが分かりやすいだろう。台湾は今回の支援計画を「人道的なもの」と位置づけ、民主主義と人権を獲得するための闘いを支援することが目的だとしている。一方、同じアジア地域の民主主義体制である韓国は、北朝鮮からの難民の移住受け入れ計画を「民族同胞の支援」と位置づけている。

この違いは、台湾と韓国が自分たちのアイデンティティーを築いてきた道のりの違いを反映している。

台湾では、国共内戦(1946年~49年)で毛沢東と中国共産党に敗れて本土を逃れてきた中国国民党(KMT)の統治下で、台湾ナショナリズム(台湾は中国とは異なるひとつの国民共同体だとする考え方)が形成された。同じ漢民族のルーツを持ちながらも、多くの台湾市民は自分たちと本土市民(外省人)の間には大きな文化的な違いがあると考えていた。だが世代交代によって両者の民族的な違いは薄まり、中国との関係については現状を維持しつつ、台湾の民主主義体制をアイデンティティーとして支持する考え方が主流になった。

<参考記事>国家安全法成立で香港民主化団体を脱退した「女神」周庭の別れの言葉
<参考記事>「イギリスが香港のために立ち上がらないことこそ危機だ」パッテン元総督

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来

ビジネス

ドル/円、一時152.75円 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中