最新記事

中国マスク外交

「中国はアメリカに勝てない」ジョセフ・ナイ教授が警告

TOO EARLY TO CALL A WINNER

2020年6月25日(木)10時55分
ジョセフ・ナイ(ハーバード大学特別功労教授、元国防次官補)

トランプの無能な対応は、アメリカの評判すなわちソフトパワーを傷つけた。中国も初動ミスで評判を落とし、それを回復するために外国に援助を提供し、統計を操作し、猛烈なプロパガンダを展開した。しかしその努力の多くは、ヨーロッパをはじめ多くの国で不信の目を向けられた。ソフトパワーとは、その国の魅力によって生まれるものであって、プロパガンダによって押し付けられるものではないのだ。

その点、中国の立場はもともと弱い。07年に胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席(当時)がソフトパワーの強化を目標として掲げたものの、その後の中国政府は近隣諸国との領土問題を悪化させ、国内でも抑圧を強化して、多様な才能が花開く機会を奪った。世界の国々のソフトパワーを比べたとき、中国のランキングが低いことは何ら驚きではない。

これに対して、経済力や軍事力といったハードパワーでも、アメリカは優位にある。パンデミック前、中国の経済規模はアメリカの3分の2にまで拡大していたが、成長の勢いは衰え、輸出は減少しつつあった。

軍事面でも、中国は軍備増強に莫大な投資をしてきたが、依然としてアメリカの軍事力には遠く及ばない。さらにパンデミックで経済が大打撃を受けたため、今後は軍事投資を控えなければならなくなる可能性がある。また、今回のパンデミックでは、中国が国内の貧弱な医療体制を補うために、莫大な投資を必要としていることも明らかにした。

一方、アメリカの地政学的な優位は、パンデミックによっても変わりそうにない。例えば、アメリカは太平洋と大西洋、そして友好的な隣国に囲まれているが、中国はブルネイ、インド、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、台湾、ベトナムなどの近隣諸国との間に領有権・海洋権益争いを抱えている。

地理的な優位性に加えて、アメリカはエネルギー面でも優位にある。シェール革命のおかげで、アメリカはエネルギー輸入国から純輸出国に転じた。これに対して中国のエネルギー調達は、今も輸入に大きく依存している。そしてその輸入ルートの要であるペルシャ湾とインド洋は、アメリカが制海権を握る。

人口動態でも、アメリカは有利だ。スタンフォード大学長寿研究センターのアデル・ヘイユティン人口動態分析部長によると、今後15 年でアメリカの労働力人口は5%増加するが、中国はマイナス9%の減少となるだろう。長く続いた一人っ子政策のために、中国の生産年齢人口は15年にピークを迎え、総人口でも近くインドに追い抜かれる見込みだ。

さらに、バイオ技術やナノ技術、情報技術といった重要分野でもアメリカの優位は明白だ。

【関連記事】限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中