最新記事

金正恩

北朝鮮の民間経済を圧迫する独裁者の国債

Bonds and Coercion

2020年5月27日(水)18時30分
ベンジャミン・カッツェフ・シルバースティーン(米シンクタンク「外交政策研究所」研究員、「ノースコリアンエコノミーウォッチ」共同編集人)

国債も北朝鮮ウォンも信頼ゼロ(金正恩党委員長) ATHIT PERAWONGMETHA-REUTERS

<平壌の総合病院建設資金を調達するため金正恩政権は禁断の一手に、国債購入を拒否した事業者が処刑された話ももはや驚きに値しない>

北朝鮮経済の長年の謎の1つは、政府がどのように経済を維持しているのかということだ。現在、食糧と外貨の市場価格は基本的に安定しており、ガソリンなど一部の商品価格は通常より不安定ながら、危機と呼ぶレベルではない。

とりわけ不可解なのは、あらゆる指標を考えると国家財政は逼迫しているはずなのに、その兆候がほとんど見られないことだ。

市場価格のデータには必ずしも表れていないが、北朝鮮の国家財政がかなり深刻な影響を受けていると考えられる理由はいくつかある。恐らく、国家部門と市場部門は、多くの人が考えるほど密接には絡み合っていないのかもしれない。あるいは、政府による経済安定化策が、強制的なものにせよ市場介入にせよ、実際に効果を上げているのかもしれない。

しかし先日、北朝鮮の国家財政の苦境を物語るような報道があった。4月中旬に韓国のニュースサイト、デイリーNKが、北朝鮮政府が平壌総合病院の建設資金の一部を調達するために、17年ぶりに国債を発行すると伝えたのだ。

デイリーNKは国債が数日後に発行されたことを今月中旬に確認した。国家プロジェクトなどで必要な資材の代金支払いに充てられるという。

今回の国債は4割が個人向け、6割が法人向けになるとみられる(債券の条件の詳細は、筆者の知る限り現時点では不明)。デイリーNKが取材した複数の情報筋は、当然のことながら批判的で、北朝鮮政権が切実に必要としている現金を、特に外貨を吸い上げるための措置とみている。

資材工場などの業者は、現金ではなく国債での決済を強いられる。さらに、「トンジュ(金主)」と呼ばれる北朝鮮の新興の富裕エリート層は、国債を購入しなければ法的な処罰を受けたり、自分の事業に損害が及びかねないと、デイリーNKの情報筋は警鐘を鳴らす。

高官は米ドルを蓄財

一方で、国債発行の計画を受けて、政権高官が米ドルをため込み始めたと言われている。北朝鮮の秘密警察である国家保衛省は、北朝鮮ウォンから外貨への交換の取り締まりを4月17日から始めたと伝えられている。

北朝鮮が(報道によるところの)国債発行に踏み切ったのはなぜか。国債とは、簡単に言えば、購入者(投資家)から発行者の国に融資するという契約だ。もちろん、政府が債券を発行すること自体は、ごく普通のことだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

海運マースク、第1四半期利益が予想上回る 通期予想

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上

ワールド

トルコ製造業PMI、4月は50割れ 新規受注と生産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中