最新記事

パンデミック

中国、全人代で野生動物の食用利用禁止へ 「医療品目的」例外で有名無実化

2020年5月22日(金)15時45分

22日に開幕する中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は、野生動物の食用利用を禁止するため、法制化を進める見通しだが、毛皮の取引や医薬品としての利用は今後も続くとみられる。写真は救出されたサル。2015年4月、雲南省昆明市で撮影(2020年 人民日報)

22日に開幕する中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は、野生動物の食用利用を禁止するため、法制化を進める見通しだが、毛皮の取引や医薬品としての利用は今後も続くとみられる。

中国政府は、新型コロナウイルスの発生源が湖北省武漢市の市場で販売されていた野生動物だった可能性が高いとみて、1月下旬に野生動物の取引を暫定的に禁止。その後、全人代常務委員会が2月に、野生動物の食用利用を法律で禁止する方針を示した。

これを受け、野生動物の養殖が盛んな湖南省と江西省は今週、飼育されている動物をできる限り野生に戻す方針を表明。猟師や養殖業者の転職を支援することも明らかにした。

ただ両省は、毛皮の取引については新たな措置を講じておらず、科学・医学目的の野生動物の取引を継続できる余地も残した。

動物愛護団体ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナルの中国政策専門家ピーター・リー氏は、これについて、異種間のウイルス感染を招いた取引が続く恐れがあると指摘。飼育業者は医薬品として野生動物を販売するようになるだろうとの見方を示した。

取り締まり強化

規制当局は1月以降、生鮮市場やオンラインでの野生動物の販売を取り締まっており、上海ではトカゲ、クジャク、ホッキョクギツネを販売していたオンラインショップなどが処分を受けた。

ただ、中国の伝統医学である「中国医学」に関連する野生動物由来の商品の販売は続いており、法的な曖昧さや需要の根強さが浮き彫りになっている。

中国医学ではコウモリの糞でつくった「夜明砂」という薬が視力回復剤などとして利用されるが、取引業者によると、コウモリの糞を採取して販売することは現在も可能。

コウモリは新型コロナのほか、中東呼吸器症候群(MERS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染源となった可能性が指摘されている。

全人代常務委員会は、野生動物の食用利用を法律で禁止する方針を示したが、医療目的の取引は引き続き容認する意向。ただ、中国医学では両者を区別できない。薬効があるとされているから、野生動物を食べるのだ。

中国医学は世界保健機関(WHO)からもお墨付きを得ているが、薬効が証明されていないとの批判や、絶滅危惧種がさらに減るとの懸念も出ている。

リー氏は「中国医学では1980年代以降、肌の健康、不妊治療、長寿、がん治療などの目的で野生動物を食べる動きが広がった」と指摘する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独首相、欧州防衛に仏核抑止力を活用するマクロン氏の

ビジネス

テスラ、30年までに年2000万台納入との目標を削

ビジネス

米SEC、イーサ現物ETF上場を承認 年内に取引開

ワールド

ブラジルと中国、ロシアとウクライナ双方参加の和平交
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決するとき

  • 2

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレドニアで非常事態が宣言されたか

  • 3

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」...ウクライナのドローンが突っ込む瞬間とみられる劇的映像

  • 4

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 5

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 6

    韓国は「移民国家」に向かうのか?

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 9

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 10

    国公立大学の学費増を家庭に求めるのは筋違い

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 8

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中