最新記事

韓国社会

韓国クラスター発生の梨泰院、BTSメンバーら芸能人も 感染者追跡の陰で性的マイノリティへの差別も

2020年5月20日(水)21時15分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

クラスター発生源はゲイクラブ

こうした芸能人のクラブ訪問の問題とは別に、今回のクラスター発生が注目を集めたのは、感染爆発を引き起こした感染者が訪れた先が「ゲイクラブ」だったことが影響しているようだ。

ドラマ『梨泰院クラス』で主人公が語っていたように梨泰院という街は「自由」な雰囲気を感じさせる。国籍やジェンダーの偏見を越えて受け入れてくれる街である。そのため、他の地域には観られないセクシャルマイノリティ専門のバーやクラブが多く集まっている。

今回クラスターが発生してしまったクラブKINGもそのうちの一つだったことから、韓国民のセクシャルマイノリティへの風当たりが強くなっている。

当初韓国内の一部メディアは、「ゲイバー」という部分を強調するかのように報道していたが、その後12日に「韓国ゲイ人権運動団体」が緊急記者会見を開き、このような表現を続けていると差別につながることを訴えると、各社記事を修正する動きがあった。また、5月17日は国際反ホモフォビア/反バイフォビア/反トランスフォビアの日だったのだが、毎年この時期に行われる各種セクシャルマイノリティ関連イベントも、今年は自粛することを発表した。

一方で、今まで徹底的な感染者の足取り公開徹底し、感染拡大を封じ込めてきた韓国だったが、今回はゲイバーであったことから、本人が名乗り出ずに検査も拒否しているケースも見られる。このことに関して、本人もゲイであり、梨泰院にいくつもお店を出しているタレントのホン・ソクチョンが、SNSを通じて「今勇気を出す時である。」「匿名保障でコロナの検査も可能なので、検査を受けて欲しい」と呼びかけている。

また、その数日後には、トランスジェンダータレントとして有名なハ・リスもSNSに「自分一人ぐらい...と考えずにみんなの為にも検査を受けてください」と訴える投稿をアップした。

行政までもがマイノリティを「魔女狩り」

しかし、このような呼びかけもむなしく、魔女狩りはすでに始まっているようだ。特に自治体が、人権をないがしろにしたかのような対応をしたのが問題になっている。折角感染拡大が収まりを見せた矢先のクラスター発生で、感染第2派となることを防ぐため、速く対応したいという考えが裏目に出たようだ。

仁川市は「仁川クイアー文化祭」の組織委員会の名簿を提出するよう要求するなど、プライバシーを無視した行為が波紋を広げた。

また、安養市は感染者の住所やアパート名まで公開。それにより第1感染者の会社員男性の家には「あなたのせいで学校再開が遅れ、子供たちが学校にいけなくなってしまった」という保護者有志による張り紙が貼られる事件が発生した。

魔女狩り行為は韓国芸能界にまで及んでいる。元々ゲイ疑惑のあった歌手のジョ・クォンは、この日クラブにいたのではないか?と疑われ、ジョ・クォンのSNSには多くの人が、クラスターの起こった日何をしていたか説明を求める書き込みをするようになった。ジョ・クォンはあきれながらも、「その日の夜は家で人気ドラマ"夫婦の世界"を観ていた」と声明を出す始末にまで発展している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中