最新記事

マスク外交

欧州で強まる反中感情

Coronavirus Dispute Highlights Growing EU Skepticism Towards China

2020年4月30日(木)17時31分
デービッド・ブレナン

中国の行動をどんなに警戒しても、「正気の人間なら誰も」中国を敵に回すようなことはしないと、欧州委員会の元顧問で、現在はEUアジア・センターの所長を務めるフレイザー・キャメロンは本誌に語った。「EUの経済的な繁栄は中国市場に大きく依存している。完全なデカップリング(切り離し)はあり得ない」

パンデミックが起きる以前、EUは中国と新投資協定に関する交渉を進めていた。この協定は9月にドイツのライプチヒで開催されるEU首脳会議に中国の習近平(シー・チンピン)国家主席を招いて署名される予定だったが、現状では会議が開催される見通しは立っていない。

交渉ではEU側は、知的財産権の保護や欧州企業の中国市場への公平な参入など、中国の投資環境の改善を強く求めていた。中国側がこうした条件を受け入れれば、双方にとって、コロナ危機後の経済回復にプラスになるだろう。だがブラッドバーグによれば、交渉成立は「既に非常に危うく」なっていた上、パンデミックでさらに遠のくことが予想される。

「9月までにまとめるのは難しいだろう」と、キャメロンも言う。

救世主気取り

中国のEUへの投資は、「一帯一路」関連事業など、EUにとっては両刃の剣でもあり、手放しでは歓迎できない。現に中国の融資でインフラを整備したアジア・アフリカの貧しい国々は「債務の罠」に陥り、重要なインフラの管理権を中国に奪われる結果になっている。

「EUは中国の投資の範囲と規模に警戒感を募らせ、重要な資産を守る必要性を痛感している」と、ブラットバーグは言う。中国はユーロ危機に乗じて欧州に経済的な影響力を広げた前科があり、「EU首脳はその二の舞を避けようと神経を尖らしている」というのだ。

かねてからEUは、新疆ウイグル自治区におけるイスラム教徒のウイグル人に対する迫害、香港の民主化要求運動に対する弾圧など、中国当局の人権侵害を声高に非難してきた。中国の権威主義的な統治システムや、それに伴う人権侵害に対するEUの懸念はコロナ危機で一層強まった。

中国はあたかも、コロナ危機を見事に克服した自分たちが、医療崩壊にあえぐEUに支援の手を差し伸べているかのような「物語作り」をしていると、ジョセップ・ボレルEU外務・安全保障政策上級代表は警告している。

<参考記事>中国からの医療支援に欠陥品多く、支援の動機を疑えとEU警告
<参考記事>欠陥マスクとマスク不足と中国政府

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中