最新記事

新型コロナ危機

サプライチェーン中国依存の危うさを世界は認識せよ

A MADE-IN-CHINA PANDEMIC

2020年3月27日(金)17時00分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)

世界の製薬産業を支えているのは中国産の医薬品有効成分だ REUTERS

<世界的な感染拡大を招いた中国が医薬品の輸出を「感謝されるべき」という態度に――中国なくして回らない生産体制の危うさ>

新型コロナウイルス感染症は160カ国以上に拡大し、多くの人の健康と生命を奪い、社会を混乱させ、経済にダメージを与えている。

この事態を招いた主たる原因は、中国当局が初期に情報を隠蔽したことにある。ところが、いま中国当局は、自国が医薬品有効成分(API)などの輸出を制限しなかったことに世界が感謝すべきだと言わんばかりの態度を取っている。

湖北省武漢で最初に患者が見つかったとき、中国当局はすぐに国民に警戒を呼び掛けなかった。それどころか、警鐘を鳴らした医療関係者を処罰したり、一時身柄を拘束したりした。

意外な対応ではない。中国当局は2002年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が確認されたときも、1カ月以上情報を隠し続けた。その後、感染が拡大し、30を超す国と地域で8000人以上が感染した。

今回の新型コロナウイルス問題では、習近平(シー・チンピン)国家主席が強力な指導者というイメージを守りたいと強く望んでいるために、秘密主義にますます拍車が掛かっている。中国当局がもっと早く国民に警戒を呼び掛け、封じ込めのための措置を取っていれば、世界中でここまで多くの被害や混乱が生じることは避けられただろう。

ほかの国がこのような(本来は防げたはずの)危機の引き金を引いたのなら、世界中から総スカンを食っていただろう。強い経済力を持つ中国はそれほど激しい批判を受けずに済んでいるが、習体制は国内外での威信を取り戻すのに相当苦労しそうだ。いま中国のリーダーたちがAPIの輸出を制限しなかったことをしきりに自画自賛しているのは、国際的な批判を回避する狙いがあるのかもしれない。

このままでは医薬品不足に?

もし中国がAPIの対米輸出を禁止すれば、アメリカは医薬品の不足により「コロナウイルスであふれ返る」だろうと、国営の新華社通信は記事で主張している。その記事によれば、中国がそのような措置を取ったとしても、入国制限など、アメリカの「不親切な」措置に対する対抗措置として正当化されるという言い分だ。

中国は過去にも、言うことを聞かない国に制裁を加えるためにレアアースなどの戦略上重要な物資の輸出を止めたことがある。米商務省によれば、アメリカで販売されている抗生物質の97%が中国産だ。「もし中国が本気でアメリカを徹底的に痛めつけたいと思えば、抗生物質の輸出を差し止めるだけでいい」と、トランプ政権で国家経済会議の委員長を務めたゲーリー・コーンは昨年語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米関税引き上げ、中国が強い不満表明 「断固とした措

ビジネス

アリババ、1─3月期は売上高が予想上回る 利益は大

ビジネス

米USTR、対中関税引き上げ勧告 「不公正」慣行に

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中