最新記事

中国

習近平国賓訪日への忖度が招いた日本の「水際失敗」

2020年2月20日(木)13時00分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

通常国会における安倍首相 Kim Kyung Hoon-REUTERS

習近平は新型肺炎の影響を小さく見せようと必死だが、その努力は「習近平の国賓訪日を実現させたい安倍内閣」において最も功を奏している。中国人の入国制限を遠慮した結果、日本が第二の武漢となりつつある。

湖北省だけを対象とした、安倍政権の初動のまちがい

安倍首相は1月31日、新型コロナウイルス肺炎の日本における感染拡大を防止すべく、対策本部の会合を開き、「前例にとらわれた対応では前例なき危機に対応できない」と述べた。しかし中国からの渡航者に関してその時点では湖北省からのみを対象としており、中国の他の地域からの渡航者に関しては制限を設けていなかった。

ところが日本における感染の拡大を受け、安倍首相は2月12日になってようやく浙江省での滞在歴などを入国拒否の対象に追加することを決め、13日から実施し始めた。安倍首相は「感染症の流入を食い止めるため、より包括的かつ機動的な水際対策を講じることが不可欠だ」と言ったようだが、遅すぎる。

1月23日に武漢を封鎖した時点で、新型肺炎発生以来、500万人の武漢市民が武漢から脱出しており、感染している可能性のある人は既に中国全土に散らばってしまっているからだ。

そもそも2月12日の時点で、中国における新型肺炎感染者の地域分布は変わっており、広東省や河南省の方が浙江省を上回っていた。2月12日時点での上位4地域を書くと

 湖北省:47,163人

 広東省: 1,241人

 河南省: 1,169人

 浙江省: 1,145人

 ・・・・・

となっている。

中国政府は新しい患者数や死亡者数を全国の省・直轄市・自治区に分けて時々刻々報道しているので、数分に1回くらいの割合で各地の新しいデータが出て来る。したがってこのコラムを公開した時には多少違っているかもしれないが、今現在(2月19日17:47)のデータで言うならば、累計患者数は多い順から以下のようになっている。

 湖北省:61,682人

 広東省: 1,331人 

 河南省: 1,262人

 浙江省: 1,174人

 湖南省: 1,008人

 安徽省: 986人

 ・・・・・

したがって今さら浙江省を加えてみたところで、広東省や河南省から来日する人もいれば、他の多くの地域から来日する人もいるわけだから、あまり感染防止の役には立っていない。

習近平国賓招聘への忖度

1月30日にWHOが緊急事態宣言を出しておきながら、習近平ベッタリのテドロス事務局長が緊急事態宣言の時に付随するはずの「当該国への渡航と貿易の禁止」を「除外」したものだから、日本はそんなWHOに足並みを揃えているようだが、アメリカなどは自国民以外の中国からの入国者は全て拒否しており、アメリカ国内での伝染拡大を確実に食い止めている。

それに比べて日本は2月12日まで湖北省だけしか対象としていなかったので、中国の他地域からの観光客などは自由に日本に入国していたわけだ。

そこで中国政府はアメリカの対応を「非常に非友好的である」として強く非難する一方、日本は「非常に友好的な国」として絶賛の嵐を送っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が短距離弾道ミサイル発射、日本のEEZ内への

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ビジネス

中国平安保険、HSBC株の保有継続へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中