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台湾総統選

日本も見習え──台湾はいかにポピュリズムを撃退したか

Taiwan’s Voters Show How to Beat Populism

2020年1月14日(火)19時15分
レブ・ナックマン

蔡と民進党は、2016年の総統選の時よりも200万人多い有権者を動員することに成功した。投票率は前回の66%に対して今回は75%。蔡の得票数は前回の690万票(対立候補である国民党の朱立倫が380万票、親民党の宋楚瑜が160万票)から820万票と大幅に増えた。世論調査では支持率が低かった韓も、550万票と前回総統選の朱より遥かに多くの票を獲得し、党員票の獲得率も前回総統選での蔡を上回った。蔡が勝利できたのは、新たな有権者(おそらく若い有権者)の動員に成功したからなのだ。

今回の総統選で香港がどのような役割を果たしたかは議論の余地があるが、民進党の若い有権者を動員する戦略において、その役割が大きかったことは間違いない。台湾総統選では毎回、「独立か統合か」という問題が世論を二分しており、民進党は事あるごとにこれを「死活問題」として若い有権者を駆り立てようとしてきた。それと同時に蔡は「一国二制度」の原則を拒否することで、台湾の主権を支持する立場を明確に示した。

韓のイメージ悪化が、蔡をより有能に見せた側面もあった。韓は市議会の運営や飲酒にまつわる問題(国民党の議員たちは韓に総統選が終わるまで禁酒するよう要請した)で、自ら評判を落とした。

カギを握った若い有権者

だが彼のもっと大きな失敗は、台湾の有権者に「自分なら蔡よりも上手く台湾の主権を守れる」と納得させることができなかったことだ。台湾の民主主義を守るという点において、蔡ほどの熱意を見せることができなかった。香港のデモについては、韓も蔡と同様に支持を表明し、「私の目の黒いうちは台湾に一国二制度の原則を導入させない」と発言したこともある。だが中国共産党との接触を繰り返してきた過去から、こうした言葉は説得力を持たなかった。

韓の懐古主義的なナショナリズムも、若い有権者を不安にさせた。彼は台湾の若者が望む「新たな台湾を守る」ことよりも、「かつての台湾の栄光を懐かしむ」方に比重を置いた。これは年配の親中派の有権者を動員するのには効果的な戦略だったが、若い有権者からは「今の台湾を大切に思っていない政治家」と警戒されることになった。

蔡の支持率が盛り返した背景にはイメージ戦略の成功もあった。彼女の広報チームは2019年、蔡のイメージを「機能不全の総統」から「台湾で最もクールな政治家(そして裏切り者の韓よりも台湾の主権とイメージを守る準備ができている政治家)」へと押し上げるために、さまざまな取り組みを行った。クールな女性政治家というイメージを打ち出すと共に、猫好きな一面もアピール。さらにYouTubeにも登場するなど徹底したイメージ戦略を推し進めたことで、蔡は狙い通り、若い有権者たちの支持を取りつけた。

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