最新記事

中国経済

中国経済の強みと弱み──SWOT分析と今後の展開

2019年12月5日(木)11時00分
三尾 幸吉郎(ニッセイ基礎研究所)

構造改革とその進捗状況

1|生産要素投入型からイノベーション型への構造改革

一方、中国は新たな経済成長の柱を育てるべく構造改革に乗り出した。そのポイントは、「外需依存から内需(特に消費)主導への体質転換」、「製造大国から製造強国への高度化」、「製造業からサービス産業への高度化」の3点に要約できると考えている。第12次5ヵ年計画(2011~15年)では、最低賃金を年平均13%以上引き上げることを決め「外需依存から内需(特に消費)主導への体質転換」に動き出し、次世代情報技術や新エネルギー車など7分野を戦略的新興産業と定めて「製造大国から製造強国への高度化」に取り組み、プラットフォーマーなどサービス産業の育成を積極化した。

Nissei191203_5.jpg


そして、現在の中国は従来の成長モデルを卒業し、新たな成長モデルを構築する構造改革の渦中にある。従来の成長モデルは生産要素(土地、資本、労働)を大量に投入することによって成功することができたが、全国各地で開発が進み、過剰設備・債務問題が顕著となる中で、新たな成長モデルのキーワードは「イノベーション(創新)」となった。2015年3月に開催された全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で李克強首相は、「大衆創業、万衆創新」という言葉を用いて、イノベーション重視へと舵を切った。その後2016年7月には「第13次5ヵ年国家科学技術イノベーション計画」を発表し、具体的な数値目標を掲げてイノベーションを強力に推進し始めた(図表-5)。そして、中国国家統計局の統計によれば、研究開発に従事するのは約438万人(2018年)で10年前の2.2倍となり、研究開発費は約2兆元(日本円に換算すると約30兆円、2018年)で10年前の4.3倍となった。なお、李克強首相は前述の全人代で、イノベーション重視を打ち出すとともに、「中国製造2025」と「インターネット・プラス」も同時に打ち出した。製造大国から製造強国への脱皮を目指す中国製造2025は、イノベーションが成功のカギを握っており、インターネット・プラスは「+医療」、「+教育」、「+農業」など様々あるが、「+製造業」で中国製造2025と同意義となり、まさに三位一体の関係にある3。

2|構造改革の進捗状況

Nissei191203_6.jpg


その成果は少しずつ出始めている。中国の大学のレベルは着実に上昇しており、上海交通大学高等教育研究院が行った分析では、2015年に学術レベルでトップ500の大学のうち、中国の大学は44校を占め米国に次ぐ世界第2位となった。2005年には第8位だったので大きく改善したといえる(図表-6)。また、科学技術に関する論文数も増えており、世界銀行の統計を見ると中国の科学技術論文数は2016年には約43万件と米国の約41万件を上回った(図表-7)。しかも、質的にも向上しており、科学技術・学術政策研究所の分析では、指標となるTOP10%補正論文数で中国が世界第2位となった。
さらに、ビジネス面での成果も挙げており新しい企業が続々と誕生している。中国国家市場監督管理総局が公表した統計によると、新規設立企業数が2013年以降右肩上がりで増加してきており、2018年には670万社となった(図表-8)。前述のように中国は、「大衆創業、万衆創新」を合言葉としてイノベーションと創業をセットで推進してきたため、中国政府による手厚い政策支援を背景に、スタートアップ企業を生み出し育てるビジネス生態系(エコシステム)が一気に整備されたのだ。

Nissei191203_7_8.jpg

―――――――――――
3 「中国製造2025」の詳細は『3つの切り口からつかむ図表中国経済』(白桃書房、2019年)の141~146ぺージを、「インターネット・プラス」の詳細は同書の147~156ぺージをご参照ください

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ワールド

スロバキアのフィツォ首相、銃撃で腹部負傷 政府は暗

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中