最新記事

ヨーロッパ

EU諸国の無策で再び訪れる欧州難民危機

The Next Wave of Migrants

2019年12月5日(木)19時20分
ジェームズ・ブレーク(ジャーナリスト)

まず、比較的寛容に難民を受け入れてきたドイツとフランスがリビアなどからの難民受け入れをさらに増やすこと。同時にEUの近隣諸国に難民受け入れのメリット、特に長期的な経済成長を支える利点を伝えることだ。

IMFの2016年の予測によれば、ドイツはそれまでに流入した難民の統合を進めることで、人口高齢化のリスクを相殺し経済成長を続けられる見込みだ。今年9月にドイツ、フランス、それにマルタの3カ国は、北アフリカから地中海を渡ってくる難民の一部引き受けで合意に達した。

社会に貢献する存在に

第2にEUと加盟国政府は悪質な密入国斡旋業者を取り締まるため、国家間および国際組織との連携を強化すること。自国の警察に加え国際刑事警察機構など国際的な警察組織にも資源と情報を提供し、違法業者のネットワークを徹底的にたたく必要がある。

加えてEUと加盟国政府は、女性や少女に対する性的虐待を防ぎ、被害者を救済するため、そうした活動を行っている支援団体への資金援助を増やすべきだ。難民や移民の迫害は人道的、道徳的に許されないばかりか、犯罪など治安上のリスクももたらす。

第3にNGOや企業、地方自治体など非国家主体が連携し、難民や移民受け入れに積極的な機運を生み出すこと。国際救援委員会などの支援団体や自治体の連携組織が旗振り役となり、移民が経済成長と多様性にもたらすメリットを広く市民に知らせるべきだ。難民・移民はこれまで受け入れ国に新たな活力とイノベーションをもたらしてきた。彼らの潜在的な力を活用しない手はない。

最後にEUは、難民・移民を「泥棒」「レイプ犯」呼ばわりするポピュリストの言説に惑わされないよう、市民を正しい理解に導く必要がある。

ケイトー研究所の2018年の調査では、テキサス州の不法移民はアメリカ生まれの住民に比べ、刑事事件で実刑判決を受ける確率が50%低かった。全米経済研究所の2007年の報告書によれば、外国出身者は逮捕されれば失うものが大きいこともあり、違法行為を働く確率が低いという。難民・移民は社会に受け入れられ、貢献できる機会を与えられれば大いに力を発揮してくれる。

ヨーロッパ人はかつて迫害と不寛容から逃れるため大挙して船に乗り込み、北米を目指した。欧州各国はその過去を振り返り、長期的な政策を打ち出すべきだ。そして短期的には今できる施策を実行すること。自分や家族のために新天地を目指して無残にも力尽きた人々の死をこれ以上、無駄にしないためにも。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2019年12月10日号掲載>

【参考記事】移民に本当に寛容なのはイギリスかドイツか
【参考記事】難民を助ける「英雄」女性船長を、イタリアが「犯罪者」と起訴

20191210issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月10日号(12月3日発売)は「仮想通貨ウォーズ」特集。ビットコイン、リブラ、デジタル人民元......三つ巴の覇権争いを制するのは誰か? 仮想通貨バブルの崩壊後その信用力や規制がどう変わったかを探り、経済の未来を決する頂上決戦の行方を占う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中