最新記事

中東

米トルコ「停戦」合意はトランプの自作自演、クルド人はその犠牲になった

2019年10月21日(月)15時15分
ジョシュア・キーティング

トルコの支援を受けたシリアの反体制武装勢力(10月17日、トルコ南部アクチャカレ) MURAD SEZER-REUTERS

<自分でつくり出した危機を「解決」して自画自賛するトランプ外交。最終的にトランプは完全にトルコ側に回る可能性もある>

トランプ米大統領には、お気に入りの外交アプローチがある。まず、長期間続く問題を自分の発言で深刻な危機に変える。次に根本の問題ではなく、自分が引き起こした危機を「ディール(取引)」によって終わらせる。最後に、問題を解決したと称して勝利を誇る。

最も有名な例が、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)党委員長との首脳会談だ。トランプと金のディールは北朝鮮との戦争のリスクを減らしたが、そのリスクの大部分はトランプが戦争になると脅し続けたせいで生じたものだ。その結果、金は外交的勝利を収め、核兵器を放棄する必要さえなくなった。

米政府は10月17日、同様のパターンでトルコとの停戦合意がまとまったと発表したが、このディールはさらにひどい結果を招く可能性がある。

この日、トルコを訪問したペンス米副大統領と同国のエルドアン大統領が合意した内容は、トルコはシリア北部での軍事作戦を5日間停止し、アメリカと同盟関係にあったクルド人民兵組織・人民防衛隊(YPG)が、トルコ・シリア国境の南20マイル(約32キロ)の範囲に設置される「安全地帯」から撤退できるようにするというものだ。

この地域はこれまでクルド側が支配していたが、安全地帯は「主としてトルコ軍が管理する」ことになる。一方、アメリカは軍事作戦の停止を待ってトルコへの制裁を撤回することに同意した。

この合意は「停戦」ですらなく、あくまで軍事作戦の「一時停止」にすぎないと、トルコの外相は主張した。それでもトランプは、すぐにツイッターで「勝利宣言」を行った。

「3日前には『絶対に』不可能だったディールだ。誰にとっても素晴らしい。(関係者)全員を誇りに思う!」

クルド人を侵略者扱い?

しかし、このディールはそもそも必要ではなかった。トルコが越境攻撃に踏み切ったのは、クルド人勢力を支援していた米軍の撤退をトランプが発表して、エルドアンに事実上のゴーサインを出したからだ。

軍事作戦の開始前、アメリカとトルコは既に安全地帯の設置で合意していたが、トルコ側は国境から20マイル幅の範囲を望み、アメリカはクルド人のために数㍄幅にとどめるよう主張して対立していた。

トルコは今、望みのものを獲得した。エルドアンはアメリカの制裁撤回に加え、国内での政治的得点も稼ぐだろう。一方、トルコの攻撃を受けたクルド人勢力は、敵対してきたシリアのアサド政権と、その後ろ盾であるロシアと手を結んだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、利下げごとにデータ蓄積必要 不確実性踏まえ

ビジネス

ソニー、米パラマウントに260億ドルで買収提案 ア

ビジネス

ドル/円、152円台に下落 週初から3%超の円高

ワールド

イスラエルとの貿易全面停止、トルコ ガザの人道状況
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中