最新記事

香港デモ

香港の運命を握るのは財閥だ

Being “Like Water”

2019年9月10日(火)17時00分
ライアン・マニュエル(元豪政府中国アナリスト)

もちろん林鄭も、中国政府の出先機関である駐香港特区連絡弁公室から直接に命令されることはない。目的なり目標なりを示されるのみで、あとは本人が最善を尽くすしかない。

つまり、指導者なき抗議活動が相手にしている香港政庁の指導者に実権はなく、遠く離れた北京政府の指示に従うしかないが、あいにく北京は具体的な命令を出さず、それでいて妥協ということを知らない。

中国は香港でもトップダウンの支配を試みた。思想とエリート層を支配すれば国民全体を従わせることができると考えたからだ。しかし香港は違った。今どきの世界のご多分に漏れず、住民は政府機関や伝統的な指導層を全く信用していない。

抗議の若者たちはこの現実を百も承知だ。中国政府の側もそれを承知していて、だからこそ香港に大人数の調査チームを送り込み、地元政財界のエリート層から事情を聴取している。

いったい誰なら事態収拾に向けた手を打てるのだろう。期待できるのは香港財界の大物たちか。彼らは基本的に体制側だが、彼らの会社や資産はまだ抗議の標的になっていない。

香港の上流階級と並んで、財閥系の大物たちにはまだ一定の影響力がある。この夏の混乱で一定の損害を被ったのも事実。彼らに政治的な権限はないが、社会的・経済的な面で彼らにできることはあるはずだ。

その筆頭は土地問題だろう。デモ隊はこんな落書きを残している。「ベッド1台がやっとの部屋にしか住めない私たちが、独房送りを恐れると思う?」

香港の不動産がべらぼうに高いのは、地価下落で損をしたくない財閥や富豪が土地を手放さないからだ。土地の放出は、経済・社会的開発がデモ隊の怒りを鎮める唯一の手段と考える中国政府の見解に一致しそうだ。

それに手詰まり感もある。公立病院で入院費の約90%が公的資金で賄われていることからも分かるように、香港の社会保障や福祉サービスはかなり充実している。ということは、その方面の支援をこれ以上増やしたところで、事態が好転するとは考えにくい。

鍵となるのは財界の動き

選択肢は2つ。1つは財閥が自ら土地を差し出すか、中国政府が(マカオと珠海市の間で行ったように)香港と隣接する広東省政府に掛け合って広大な用地を提供させ、公共住宅を建設するというもの。これなら財閥も開発を受け入れやすい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中