最新記事

フランス外交

フランス美食外交に潜む深謀遠慮──異色外交官が明かす食と政治の深い関係とは

2019年8月21日(水)18時00分
吉田理沙(パリ在住ジャーナリスト)

「このすぐ隣にポンピドゥー元大統領が住んでいたのですよ」。年代物であろう調度品に囲まれた瀟洒なサロンに腰を下ろし、フォールは微笑む。

「(パリ・フード・フォーラムの共同議長に)アラン・デュカスが選ばれたのは当然でしょう。エマニュエル・マクロン大統領が17年、訪仏したドナルド・トランプ米大統領との会食に選んだのは、エッフェル塔内の彼のレストランだった。気候変動サミットの晩餐会でも料理を担当した。そして、このフォーラムは国際会議であり、外交と直結している。政府の内情に通じ、国際的なパイプを持つ人物として、私が選ばれたのだと思う」

人口100億人時代の食

フォールは76年に外務省に入省した。アメリカやスペインなどで外交官としてのキャリアを積んだ後、90年から10年間ほどは外交の世界を離れ、民間の保険会社社長や、ミシュランガイドと並ぶ仏レストランガイド『ゴ・エ・ミヨ』社長を務めたが、00年、ジャック・シラク元大統領の呼びかけで外交の世界に復帰。駐メキシコ大使や駐日大使を歴任し、外務官僚トップにも登り詰めた。

15年からはフランス観光開発機構理事長としてフランス料理の魅力を世界に発信し、16年にはアルゴリズムに基づく世界レストランランキング『ラ・リスト』を創設した。外交官と美食家という、ふたつの顔を併せ持つ人物だ。

「1830年に地球上の人口は10億人だった。1960年には30億人になり、現在70億人。そして、2050年には100億人になる。これは尋常ではない。100億人にどうやって食糧を提供するのか。どんな食べ物を、どのように調達するのか。極めて複雑な問題で、今、対処しないといけない。同様に、化学製品を使わない安全で健康的な食品の大切さをトップ層が繰り返し訴える必要がある。パリ・フード・フォーラムを、ダボス会議のような位置づけにしたい。ダボスが経済なら、パリは食糧、健康そして地球について話し合う場だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中