最新記事

為替

トランプ、突然「問題は中国にはない」――中国では「どうしたの?」

2019年8月9日(金)19時02分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

アメリカのジャーナリズムは凄い。政権与党やその国のトップリーダーへの忖度をせずに、堂々と真実を書いていく。これはつまり、「大統領が個人の思惑でアメリカの金融を操作している」ことを、堂々と指摘し批判しているのだ。

そのとき何が起きていたのか?

それにしても、ここまで書くからには何かある。

どうもおかしいと思い、さらに追跡してみると、ようやく謎を解いてくれるカギを探し当てた。

すでに公表されている事実ではあるが、実はFRBは7月31日に、フェデラル・ファンド金利の誘導目標を0.25%引き下げ、年2~2.25%にすると発表していたのだ。

これに対してトランプ大統領は「下げ幅が小さい」と不満を露わにし、FRBのパウエル議長に関して「いつも通り、パウエルはわれわれを失望させた」とツイートしている。

一方、8月8日付のブルームバーグの記事「トランプ氏の貿易戦争、不覚にもドル高要因に-安全逃避で米債急騰」をご覧いただきたい。そこには明確に「トランプ大統領は繰り返し米金融当局に利下げを要求し、その一方でドルは強過ぎるとの不満を表明してきた。ただし米当局が追加利下げに踏み切った場合、実際には景気が押し上げられドルを支える可能性がある。こうなった場合トランプ大統領のいらだちが募るだけかもしれない。オプショントレーダーの間では対ドルでの人民元安を予想する見方が強まっている」と書いてある。

つまり、「弱いドルを望むのであれば人民元とユーロの上昇を望むべき」だが、実際はその逆の方向に動いて「人民元安」を招いた。

そこで苛立ったトランプ大統領が、中国を「為替操作国」と認定したものと解釈することができる。

そうでなければ、いくら何でも不自然だろう。

6月29日にはG20大阪サミットで習近平国家主席と会談し、驚くべき譲歩を見せ、7月31日にはその合意に沿って上海での米中貿易協議を終え、ホワイトハウスは「非常に建設的だった」という表明をしたばかりだ。それと同時にトランプ大統領が協議に対する不満を述べて、突然第4弾の対中関税制裁を表明しただけでなく、5日には人民元安を見て中国を「為替操作国」と認定した。

その陰には、7月31日のFRBの動きと、ブルームバーグが解説した流れがあったのだということが分かると、初めてトランプ大統領の「連続する唐突さ」の原因が読める。

アメリカの「真実を追う」ジャーナリスト根性に敬意を表したい。

(なお、本コラムは中国問題グローバル研究所のウェブサイトから転載した。)

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中