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吉本・ジャニーズの激震が示すエンタメ界の危機 芸能事務所とテレビ局は共同体のままでいいのか

2019年7月26日(金)15時45分
吉川 圭三(KADOKAWAコンテンツプロデューサー) ※東洋経済オンラインより転載

危機管理上の原則である"初期消火"と"情報開示"が行われなかった。たとえ、芸能の世界がやや曖昧な世界であり叩けば埃の出る世界であることがその持ち味だったとしても、たけしとさんまと言うこの芸人の世界の頂点にこんなことを言わせているだけでアウトだと思う。

そして、21日放送のフジテレビ「ワイドナショー」での松本人志の言葉。「(宮迫・亮の記者会見を見て)俺の知らなかったことが多すぎて、だまされた気になった。(中略)吉本興業がこのままでは壊れていくという危機感を持った」。吉本の上層部に近い松本ですら"知らない・知らされない"事態があった訳だ。

そして、7月22日の吉本興業・岡本昭彦社長の5時間を越える記者会見。本音と真実が見えないのでこんなに長くなったのか?

同列には論じられないが、1982年に日本テレビに入社した私にとって、ジャニーズ事務所は一男性アイドルグループの事務所であったし、吉本興業は関西の一お笑い芸能事務所であった。そしてさまざまな流れに乗って両社は巨大なモンスター芸能事務所になった。

テレビも両者の力を利用した。歌番組やバラエティーだけでなくドラマ主演や朝から夜に至るまで放送されるニュースや情報番組のキャスターやコメンテーターですら両事務所のタレントで占められる。民放もNHKも。そして、両事務所と対等に渡り合っていた先輩たちがいなくなりいつの間にか「行政」という名の取引や交通整理が行われるようになった。

キャスティングの裏舞台など視聴者にはお見通し

それはまるで今まで互いに切磋琢磨し融合と決別を繰り返して来たテレビ局と芸能界がまるで一体化し共同体でも生まれたかのようでもある。さらに言えば今ではSNSなど出現のせいなどではなくさまざまな視聴者層から「テレビは面白くなくなった」と言われるようになった。キャスティングの裏舞台など視聴者にはお見通しだからだ。

「芸人に社会性とか安定とか望む社会が変だよ。(中略)品行方正を求めるのは間違い、芸人に危険度がなくなると、つまんなくなったと言われる。オイラは毎回綱渡りをしているようなもんだよ」。ビートたけしの言うことは、確かにと思う。エンターテインメントと言うのは公序良俗に反することをオブラートに包み表現できた時、最高潮に面白くなると思う。

日本のテレビと芸能は本当にこれからどうなるのだろうか。この狭い島ニッポンで小さな利権を貪りやがて縮んでゆくのだろうか。そして、令和になりこれからもさまざまな出来事が起こり、もしペンペン草も生えないような状況になったら、その時何かが生まれるのだろうか。

ある種、事の本質をつかんでビジョンを持った人間が現れ改革が起こるのだろうか。ただ、その前には、「ビジネス優先」とつぶやき続ける理念のない既得権益者を退出させることが必要なのかもしれない。

(文中敬称略)

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
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