最新記事

イラン核問題

イランが濃縮ウランを増産、核合意は生き残れるか

Iran Has Increased Uranium Enrichment since Trump Abandoned Nuclear Deal

2019年6月11日(火)16時35分
クリスティナ・マザ

経済支援が得られないなら核合意も守れないと言うイランのハッサン・ロウハニ大統領 Brendan Mcdermid-REUTERS

<アメリカが制裁圧力を強めて緊張が高まる一方のイラン情勢。解決への道筋は遠のくばかりだ>

国際原子力機関(IAEA)は6月10日、濃縮ウランの生産を加速していると警告した。ドナルド・トランプ米大統領が2018年5月8日にイラン核合意から離脱して以来初めての拡大だという。

IAEAの天野之弥事務局長は記者団に対し、イランは濃縮ウランの生産を加速させているが、イラン核合意に違反するレベルかどうかはまだ定かではないと述べた。「イランが核合意を履行しているとは言っていない。しかし、履行していないとも言っていない」

天野によれば、イランが生産を増やしているのは原発で使われる低濃縮ウラン。ウラン235の濃度が3%~4%のものだ。核兵器製造には濃度を90%程度まで上げる必要があるが、まだそれまでには至っていない。

イランも、同国の濃縮ウランは原発のため、平和利用のためだと主張してきた。しかし国際社会の大半は、イランの核プログラムは核兵器の開発につながりかねないと懸念している。

アメリカのオバマ政権が2015年に、イラン、イギリス、フランス、ドイツ、中国、ロシアとの合意をとりまとめたことで、イラン政府は西側の制裁を緩和してもらうのと引き換えに、核プログラムを抑制した。

イランはいつまで核合意にとどまるか

しかしアメリカは2018年、一方的に核合意から離脱。

イランはその後も核合意を順守してきた。国際査察団も確認した。しかし、アメリカが制裁を再開し、5月2日からはイラン産原油の全面禁輸に踏み切ったことで、イランは経済的に追い詰められ、英独仏が原油購入を増やすなどアメリカの制裁を相殺する価値をもたらさなければ低濃縮ウランの生産を増やすと言っていた。

天野は6月10日の記者会見で、イラン核合意交渉に参加している国々に対し、イランが核合意を維持し、核兵器開発能力を持つことがないよう、イランとの対話を継続してほしいと求めた。

同じく6月10日には、ドイツのハイコ・マース外相がイランのジャバド・ザリフ外相と会談。ヨーロッパ各国は、核合意を維持できるようできる限り努力し、イラン核合意に違反しない範囲内の経済支援を検討したいと述べた。

イランを追い詰めるアメリカの強硬姿勢が続くなら、緊張はますます高まるばかり。

(翻訳:ガリレオ)

20190618issue-cover200.jpg
※6月18日号(6月11日発売)は「名門・ジョージタウン大学:世界のエリートが学ぶ至高のリーダー論」特集。「全米最高の教授」の1人、サム・ポトリッキオが説く「勝ち残る指導者」の条件とは? 必読リーダー本16選、ポトリッキオ教授から日本人への提言も。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米インフレ、目標上回る水準で停滞も FRB当局者が

ビジネス

再送-米マイクロソフトがXbox開発スタジオを一部

ビジネス

介入の有無、予見を与えるため発言控える=鈴木財務相

ワールド

バイデン氏、大学卒業式の平和的抗議を歓迎
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中