最新記事

疑惑

役人と企業に富、人民には飢えを 中国×ベネズエラ事業「負の遺産」

2019年5月17日(金)15時20分

カリブ海に面したベネズエラのデルタアマクロ州で、中国の建設会社が、故チャベス大統領との間で大胆な合意を交わした。その中国プロジェクトで、数百万人の生活を支えられるようになるはずだった。写真はベネズエラの精米所で作った米の袋に描かれた中国とベネズエラ国旗。2018年撮影(2019年 ロイター/Manaure Quintero)

その中国プロジェクトで、数百万人の生活を支えられるようになるはずだった。カリブ海に面したベネズエラのデルタアマクロ州で、中国の建設会社が、故チャベス大統領との間で大胆な合意を交わした。

この国有企業が、新たな橋や道路、食品工場のほか、ラテンアメリカで最大の精米工場を建設する、というものだった。

ロイターが確認した契約文書のコピーによると、中工国際工程(CAMC)<002051.SZ>が2010年に交した合意は、ニューヨークのマンハッタン島の倍の広さの水田を開発し、地元に11万人の雇用を創出するという計画だった。

ベネズエラの社会主義政府が、貧困層支援という公約への取り組みを示すのに、この未開発の州は格好の場所だった。また、チャベス前大統領と、彼に後継者として指名されたマドゥロ現大統領が、豊富な石油資源を持たない地域の開発のために中国や他の同盟国から協力を得られることを示せる機会となるはずだった。

「コメの力!農業の力だ!」と、当時チャベス氏はツイートした。

9年後の今、地元住民は空腹を抱えている。

実現した雇用はわずかで、精米工場は半分しか建設されておらず、計画の1%未満しか生産していない。地元産のコメは1粒も生産されていないと、同計画に詳しい10人以上の人物が語る。

それでも、CAMCや、ひと握りのベネズエラ側パートナー企業は潤った。

頓挫したこの開発計画を巡って、ベネズエラがCAMCに少なくとも1億ドル(約1100億円)を支払ったことが、契約書や、欧州検察当局が裁判所に提出した捜査書類から分かった。

ロイターが確認したこの書類は数千ページに及ぶもので、アンドラ公国の裁判所に提出された。スペインとフランスの国境地帯にあるアンドラが、計画にかかわったベネズエラ人が契約締結の見返りとして受け取ったキックバックを洗浄する舞台になったと検察は主張している。

アンドラ上級審の裁判官は昨年9月の起訴状で、精米工場建設計画のほか少なくとも4件の農業関連の契約を確実にするため、CAMCがベネズエラの複数の仲介者に1億ドル以上の賄賂を支払った容疑を指摘した。

この時、ベネズエラ人12人がマネーロンダリングやそれを共謀した罪で起訴された。その中には、契約締結を可能にしたと検察側が指摘する元ベネズエラ石油相のいとこのディエゴ・サラザル氏や、当時のベネズエラ国営石油会社(PDVSA)の中国代表が含まれていた。

関連書類によると、このほかに他国籍の16人が起訴され、当時ベネズエラの駐中国大使で、現在は駐英大使として務める人物を含めたベネズエラ人少なくとも4人が捜査対象となっている。

起訴の事実や、起訴された人物の名前、中国企業との関連は、スペイン紙エルパイスが昨年報じた。ロイターは、アンドラ当局が現在も公表していない捜査書類を検証。CAMCや他の中国企業が、起訴された人物の多くに接近し、契約を勝ち取るために多額の賄賂を渡しながら事業の多くを完成させなかった実態が明らかになった。

その結果、オフショア口座を経由したキックバックの風習がまん延し、人脈を持つベネズエラ人仲介者が私腹を肥やした一方で、立ち遅れた地域の開発プロジェクトが最終的に頓挫することになったと検察は主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港、国家安全条例で初の逮捕者 扇動の容疑で6人

ワールド

サウジ国王、公務に復帰 肺炎治療後初の閣議出席=報

ワールド

ラファ空爆後の火災、標的近くの弾薬に引火した可能性

ビジネス

米CB消費者信頼感、5月は102.0 予想に反し4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏最新インタビュー

  • 3

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧州はロシア離れで対中輸出も採算割れと米シンクタンク

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 6

    コンテナ船の衝突と橋の崩落から2カ月、米ボルティモ…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    TikTokやXでも拡散、テレビ局アカウントも...軍事演…

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 9

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中